龍翁余話(548)「認知機能検査―75歳以上の運転免許更新」
つい先日、同年輩で親友のJさんから「免許更新のための認知機能検査を受けて来ました。
後日、改めて高齢者講習を受けます」とのお電話を頂戴した。翁は一瞬、Jさんの電話の内容が理解出来なかった。「後日、改めて高齢者講習を受ける」の意味が分からなかった。
昨年(2017年)3月に道交法が改正され、その直後(4月)に翁は免許更新の講習を受けたのだが、その時は『認知機能検査』の後(約30分後)、模擬運転テスト(シミュレーター装置による運転操作=トレーチャー)・視力(及び視野)検査・講習所内コースでの運転実施など、いわゆる『講習』も同日行なわれ、帰り際『知能検査』『講習』の結果表(採点表)が手渡されて(つまり同日、約3時間で)終了した。翁が70歳を超えてからの運転免許更新講習は、全て、この形式だった。それが(Jさんの話では)『認知機能検査』と『高齢者講習』は別の日、とのこと。調べて見たら、今年(2018年)4月から“別の日”になったそうだ。「年寄りに2度も足を運ばせ、ゼニを取るのか」と多少納得しかねるのだが、理由は『認知機能検査』の結果によって『講習』内容が変わるから、だという。そういうことなら仕方ない。そこで(改めて)『75歳以上の運転免許更新』の流れを見てみることにした。
まず、免許証の有効期間満了日(誕生日)の約190日前に『認知機能検査の予約・受検』の通知(ハガキ)が来る。指定された(地域の、いずれかの))自動車教習所に予約を入れる。検査(受検)の結果、「記憶力・判断力の心配なし」または「記憶力・判断力が少し低くなっている」までの人は、改めて指定された講習所または試験場へ『高齢者講習の予約』を入れ(講習期間満了日までに)受講出来る。一方、「記憶力・判断力が著しく低下している」という判定結果が出た人は専門医の所で『臨時認知検査』を受け、その診断書を“運転免許本部”に提出、そこからの通知を待たなければならない。「認知度が高い」と診断された場合は“免許の停止・取消し”になる。
『認知機能検査』の検査項目は3つある。まず、受検者は腕時計を外す。最初のテストは「時間の見当識」――これは検査当日の年月日、曜日を回答するだけ。次は「時計描写」――配られた紙に時計の文字盤を描き、更に、その文字盤の上に指定された時刻を表す針を描く。この2問は比較的簡単だ。もう1つは「手がかり再生」――これは大いに厄介だ。4つのジャンル(例えば乗り物・動物・果物・楽器、あるいは乗り物・動物・台所用品・建物など)の、それぞれのジャンルごとに4つの絵(イラスト)が描かれ(合計16図)、それらを見せられた後、係官が10分ほど他の話をする。その後、(先ほどの)4つのジャンルのそれぞれの4つの絵を思い出して回答する。実は翁、昨年の4月の受検の際、16の絵のうち13の絵を思い出して回答した。おそらく最高のAランクだったと友人たちに自慢したが、実はネタをばらすと、絵を見せられた後の係官の(約10分間の)話を全く聞かずに、(先ほど見せられた)16の絵を丸暗記することに集中した。その結果、高得点を得たのだ。口の悪い友人から「それはインチキでしょう」と嫌味を言われたが、それに対し翁「いや、これも“要領”の1つだ。わずか10分間、雑音(係官の話)の合間に16の絵を記憶することに集中することだって大変なエネルギーを必要とする。それに耐えてAランクを獲得した。俺の作戦勝ちだ。記憶することに集中出来ること自体、認知機能が有効に働いている証だ」と自画自賛したものだった。それはさておき――
『認知機能検査』終了後に採点が行なわれ、その点数に応じて(前述のように)「記憶力・判断力に心配がない」、「記憶力・判断力が低くなっている」――ここまでは合格、次のステップ『高齢者講習』を受講することが出来る。「記憶力・判断力が著しく低下している」(認知症が懸念される)は後日、警察から連絡があり、専門医による『臨時認知検査』を受検し、その診断書を“運転免許本部”に提出、そこからの通知を待たなければならない。「認知症である」と診断された場合は聴聞などの手続きの上、運転免許停止、または取り消されることもある。
2016年末の運転免許保有者数は8,221万人。そのうち75歳以上の免許保有者は約513万人(75歳以上の人口の3人に1人)で、前年同期に比べ約35万人(7.3%)増加、今後も増加すると推測されている。それに伴い高齢者(特に75歳以上)の自動車運転ミスによる事故も激増している。事故原因には
“ぼんやり・うっかり”によるブレーキの踏み間違い、信号無視、一方通行逆進入、高速道路の逆走、更に運転中の急性疾病などいろいろある。高齢者は動体視力の低下、複数情報を同時に処理する能力の低下、判断力・反応神経の鈍化など基本的な心身諸機能の衰えによりハンドルやブレーキ操作に誤りが生じる。その結果、自損だけでなく他人をも巻き込む悲惨な死傷事故を起こす。事故を起こした高齢者自身も、巻き添えを喰った人たちも、それぞれの人生を台無しにしてしまう。実に恐ろしいことだ。翁のように免許証は持っているが運転をしなくなった人、免許証を自主返納した人も増えてきているそうだ。怖いのは認知機能が低下していることに気づかず、昔の自分の運転技術(思い込み)をいつまでも引きずって運転し続ける高齢者だ。警察庁の発表によると、2017年12月末までに『認知機能検査』を受けた高齢者ドライバー172万5292人、その中で4万6911人以上が認知障害の徴候があると判定された。うち1万2447人が医師の診断を受け、その結果1351人が認知症と診断され、免許の取り消し・停止となったそうだ。(本号は、75歳以上の人の”免許更新“時の参考にしていただきたい。)
運転にはかなりの自信を持っていた翁ではあったが“転ばぬ先の杖”を考えて昨年11月に愛車を手放した。免許証を持っているのに車が無い不便さ、寂しさは、しばらくの間続いたが、少しずつ公共交通機関をうまく利用することに慣れてくると、安全性・健康性・経済性が根付いて、1年経つ今では、ようやく“車離れ”が出来て来た、と言いたいのだが、正直なところ、まだ未練がましくドライブしている夢を見る。新車CMに気持ちが動く。車への愛着が消えるのはいつの日だろうか・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |