龍翁余話(363)「横浜・中華街の春節」
中国の春節(旧正月)が2月19日から3月5日までの15日間、全国のチャイナタウンで始まった。元旦に当たる19日に横浜中華街へ出掛けた。これまで横浜中華街には何回も行っているのだが春節に行ったのは初めて。肩がぶつかり合うほどの人・人・人・・・あちらこちらでボリューム全開の中国語が飛び交う。今年に入って新宿・銀座・秋葉原・池袋・渋谷などのショッピング街が連日、大勢の中国観光客(いや、爆買客)に占領されている。日本政府観光局の発表によると、今年1月の訪日外国人客は前年比29.1%増の121万8000人、そのうち中国人観光客は前年比45%増の約23万人、2月に入ってその勢いはますます強まっているそうだ。おまけにこの春節は中国人にとって最も重要な慶祝シーズン。横浜中華街が普段以上に“中国”に変貌しているのも無理はない。天津栗売りのアンちゃんや姐さんが(妙なアクセントの日本語で)「美味しいよ」と言って素手で剝いた栗を通行人の顔先に突き出す。翁も数人の売り子に声を掛けられた。殻がついた栗ならまだしも“薄汚れた指で剝いた栗なんか食えるか!”と無視。点心(シュウマイ・餃子・春巻き・肉マンなどの軽い食べ物)の匂いが街路に充満する。中国料理の好きな人は鼻をクンクンさせるだろうが、匂い(臭い)に弱い翁、それらの臭いと人の波に酔って急いでスターバックスに逃げ込む。きょう中華街に来た目的は(雑技団アクロバット風の)獅子舞を観るためだ。それが始まるのは午後4時頃、それまでコーヒー2杯とケーキで2時間もねばった。
ず〜と昔の話だが――翁が初めて“チャイナタウン”を知ったのは、小学校6年生の夏、“長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典”に行った時のことだった(この“式典”については2010年8月8日配信の『龍翁余話』(142)「ああ、長崎の鐘〜永井博士を想う」に詳しく記載)。
長崎市新地町に形成された南北250mの『長崎新地中華街』を歩いて(田舎で生まれ育った)12歳の少年の驚きはいかばかりだったか。この少年の“海外を駈け巡りたい夢”は、この時に芽生えたと言ってもいいだろう。その第1歩が中学3年の時の“神戸遊学”だった。田舎育ちの少年が親元を離れ(当時)6大都市・神戸に単独遊学するということは、現在の海外留 学にも等しい“冒険”であった(と述懐する)。高校1年の時、たまたま同級生に中国系のSさんという同級生(女生徒)がいた。Sさんのお宅は南京町の一角で中華料理店を営んでいた。神戸の南京町というのは長崎新地中華街、横浜中華街と並ぶ“日本三大チャイナタウン“の1つ。神戸市中央区の元町通りと栄町通りにまたがる東西約200m、南北約100mのエリアに100あまりの店舗が軒を連ね、地元の買い物客は勿論のこと、現在でも大勢の観光客で連日賑わっている。中央の広場に建つ“あづまや”(写真右)が“This
is
China”を演出している。この“あづまや”は横浜中華街の一角に位置する山下町公園内にもあるし、世界中どこのチャイナタウンでも見かける建物である。高校1年生の翁は数人の級友と連れ立って月に1、2度Sさんのお店で(タダ同然で)分けて貰った豚マン(肉マン)やシュウマイを、この“あずまや”でほおばりながら、地元の老人たちが語る(戦前・戦中・戦後の)南京町の歴史を聴くのが楽しみだった。ここ横浜中華街も1955年(昭和30年)以前は、唐人町とか南京町と呼ばれていたそうだ。200平方メートルのエリア内に500以上の店舗がひしめく日本最大・ア
ジア最大のチャイナタウン、横浜中華街の中国人の人口は6000人を超えるという。
4時を過ぎた頃、街のあちこちから威勢のいい爆竹やドラの音が鳴り響き、春節(新年)ムードを盛り上げる。さあ、いよいよ獅子舞の出番だ。獅子舞と言っても日本の(いかつい顔の)獅子面とは異なり、大きな目や鼻がユーモラスで白色や黄色などに彩色された獅子(写真中)5頭が5コースに分かれ“採青(サイチン)”と言って店の軒先に吊り下げた青菜や祝儀袋を獅子がくわえ、その店の商売繁盛を祈って舞うのだが、そればかりではなく『關帝廟』(160年前後の後漢、三国時代にかけて人民の飢餓を救うために活躍した実在の武将・關羽を祀る寺院)や『媽祖廟』(航海や漁業の守護神・媽祖(まそ=女神)を祀る寺院)に詣で、五穀豊穣や海の安全を祈願して舞う中国伝統行事である。1頭を2人で操るこの獅子舞は銅鑼(ドラ)や太鼓に合わせて激しく踊り、最後に獅子頭(ししがしら)役の男が胴体役の男の肩に乗っかって伸び上がると(約3.5m=写真右)一斉に爆竹が鳴り響き、観客から大きな拍手と歓声が沸き起こる。(爆竹は、火災・火傷・空気汚染などを考慮してか、リヤカーに乗せられた2m四方の“爆竹箱”の中だけで点火される。)この春節イベントは(3月5日までの間に)中華街の1角にある山下町公園で中国舞踊・獅子舞、中国雑技・中国武術が披露されるほか、2月28日午後4時からは、獅子舞、龍舞とともに皇帝衣装に身を包んだ人たちによるパレードも行なわれる予定だとか。
横浜中華街に行くと翁は決まってK楼の豚マン(肉マン)3個とJ飯店の番餅(バンピン)1本を買うことにしている。K楼の豚マンは普通のそれの2倍の大きさ、中の豚肉もぎっしり詰まっている。J飯店の番餅というのは、小豆餡の表面を、ローストした胡桃(くるみ)で覆った羊羹の形をしたもの。程よい香りと甘さが翁の好みに合う。最近、食が細くなった翁、あの大きな豚マン1個を食べたあと番餅を2cmほどに切ってデザートにすれば、
それで充分。きょうの昼も“豚マン・ランチ”・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |