にゃんこ
何年か前、知り合いの家にかわいい猫がいた。引っ越した先にすでにその猫はいたようで以前はそこに住んでいた家の猫だったらしい。とても臆病で人見知りするらしく新しい人が来ると必ずどこかに隠れてしまいその人が帰るまで出てこない。特にパーティーの時などは、かなり警戒して最後の一人が帰るまで絶対に姿を現さない。私の場合、初めてこの猫と会った時、初めは恐る恐る遠くから私の様子を見ていたが“おいでおいで”と床に座り込んで呼んでみたら近寄ってきた。おそらく相性もあったのだろう。それからすぐに甘えてくるようになった。そしてその後の数か月間、その猫のいる人の家の1部
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あくび |
寝起き |
寝起き |
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いないいない |
ば〜 |
グースカ |
屋をテンポラリーでルームレントさせてもらう事になった。子供の頃にしばらく飼っていた猫がいたが、それ以来の猫との生活だった。警戒心が強いくせに、ひどく寂しがり屋で慣れた人には甘えん坊だった。朝は私の部屋の前でドアを開けるまで1時間でもあきらめずに頑固にミャーミャー鳴いていた。初めは甘えた声で鳴いているのだが途中からはヒステリックな怒り声になってやがてその声のトーンが低くなっていく。そして疲れて声が小さくなり猫は仕方なくドアの近くでふてくされて寝ている事などもあった。結構、そういう所はなかなか根性のある猫だった。いつも朝、人を起こしに来るのでたまには、こち
らが先に起きて脅かしてあげようと思いある朝、まだ暗いうちにこっそり猫に気が付かれないように起きて寝起きのその顔をカメラに撮ってみようと待っていた。その気配に気がついたのか、あたふたと慌てて起きてこちらにヒョロヒョロと走ってきた。その顔を撮ったら思わず吹き出してしまった。本当にまだボーっと夢見心地の顔で目が開いていなかった。朝起きるとキッチンやリビングルームなど私の行く先々どこまでもくっついてくる。まるで犬のような猫だった。普段は美人でかわいい顔をしているのに私がカメラを構えるとタイミングが悪いのか急にあくびをしたりブス顔になってしまうので、なかなかいい表情を撮ることが出来なかった。ある日、私が用事で出かけようとしていた時、ふと見たら私の車の上にその猫が置物のように鎮座しているのを見つけた。 “ほらほら、邪魔だから降りて”と言っても降りない。ミャーミャー行くなと抵抗しているように見えた。そこでエンジンをかけたら、しぶしぶジャンプして地上に降りた。そして恨めしそうにずっと私の車を見送っていた。帰ってくると大抵は庭の方からヒョコヒョコ
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ニャンコの絵の落書き |
ニャンコの絵の落書き |
猫の寝床 |
出てきて嬉しそうにひっくり返りミャーミャー鳴きまくりお腹を見せてゴロゴロ転がっていた。ずいぶん喜びをオーバーに表現出来る猫なのだな〜と感心したものだ。
そんな猫が隣の家の子供も大好きでキティーキティーと追い掛け回していたがいつも猫に逃げられていた。ある朝、出かける時に隣の子供が書いたのかチョークで家の前に大きく子供の自画像とその脇に猫のイラストが書いてあった。何だかほのぼのした気分になってその絵の写真を撮った。先日、写真の整理をしていたらその猫の存在が懐かしくなって家のオーナーに猫の様子を尋ねてみたら昨年あたりから突然姿を消して行方不明になったと聞いた。以前、久しぶりに、この家の近くを通りかかった時、今でも猫は私の事を覚えているかしらと車を停めて家の前に行った事があった。車のエンジンの音を覚えていたのか庭の方から猫は現れた。そして前と同じようにお腹を見せてゴロゴロ転がって甘えてきた。少しの間ではあったけれど私の心の隙間にこの猫は確実に存在していた。その事を思うと何年も猫や犬と暮らしている人にとっては、その存在がいなくなった時は本当に心に大きな穴がぽっかりあいたような空虚な気持ちになるのだろうなと思った。そしてやっぱり、私はペットを飼わないと決めた。
茶子 スパイス研究家 |