龍翁余話(307)「ボランティア」
1年に1回くらいしか会わない人だが、翁が尊敬している1人のシニア女性がいる。その人の名はS・Nさん。お若い頃は幼稚園の先生をしておられたそうだ。実は、翁の映像制作の後輩R・N君の母上である。そのS・Nさんがボランティア活動をなさっておられる話を聞いたのが、たしか10年ほど前。「軽度の身体障害者や障害児と一緒に美術館や博物館に行ったり、名所旧跡を訪ねたり・・・それは確かに大きな責任が伴って精神的緊張と肉体的疲労は生半可ではありませんが、その人たちの喜ぶ笑顔を見たり、心が通じ合ったりした時の感動は“次への力”になります。私のボランティア活動は、障害者や障害児たちのために、ではなく、逆に彼らから私は生き甲斐を貰っているのです。私の体力・能力が続く限り、これからも・・・」失礼ながら小柄な体躯で70歳を超えておられるのにエネルギッシュにボランティア活動を続けていらっしゃる、そのことに翁は尊敬の眼差しを向けているのである。ちなみに『ボランティア』とは(辞書によると)一般的には自主的に無償で奉仕活動をする人を言うのだが、単なる無報酬の奉仕活動だけではなく、自己の自発的な意思によって社会の諸問題と直接向き合い、理解・共感・勤労と同時に(ボランティア自身が培って来た)技術・知識を提供する人のことである。
さて、先週に続きハワイの話題――11月の半ばから2週間、オアフ島(ハワイ)へ旅した。30年以上も続く翁の毎年恒例の“リフレッシュ・トラベル”であるから親友も多い。その中にフローレンス・ワサイと言う日系3世のご婦人がいる。彼女のご主人・故リチャード・ワサイ(元ハワイ州議会議員)と翁は公私にわたる兄弟関係であった。そこで当然、リチャード夫人フローレンスさんとも30年以上、親しくお付き合いをさせていただいている。実に穏やかで親切で、教養溢れるレディだが、いささかも驕ることのない控え目なお人柄、そのフローレンスさんが2006年からボランティア活動をしておられることを(このたび)初めて知って、更に彼女への尊敬の念を深めた。前述のS・Nさんと共通するところは、お二人とも教育経験者。S・Nさんは元幼稚園の先生、フローレンスさんは元中学校の数学教師。そしてお二人とも(またまた失礼ながら)70歳を超えるシニア世代。しかし、お二人のボランティア活動内容は異なる。S・Nさんの(行動可能な障害者の)“戸外活動支援”に対してフローレンスさんのボランティアは、老齢や障害などで日常生活行動が不自由な(原則として)独居老人を対象とする“訪問支援”である。
フローレンスさんが所属しているボランティア団体は『プロジェクト・ダーナ』。1989年にシメジ・カナザワ女史(現在93歳?)が、ハワイ・モイリイリ本願寺で立ち上げた“お年寄りや障害者を支援するための活動団体”である。現在のヘッド・リーダーであるローズ・ナカムラ女史に『プロジェクト・ダーナ』の概要をうかがった。『ダーナ』(与えること)とは、慈愛の心を持って他人のことを考え、見返りを求めない純粋な奉仕活動のことで、コンセプトはレシピエント(支援を受ける人)への愛を基本に、レシピエントが生きる希望と喜びを感じる支援(時間の提供と行動支援)である。具体的な支援活動としては@電話訪問(電話で話を聴いてあげる)A買い物の手伝い及び代行B簡単な掃除C家(部屋)の安全への目配りD病院へのアポや付き添いE教会や寺院への同行F寸時の玄関先への立ち寄りG(在宅訪問で)世間話や悩み相談、読書、(こうした支援を通して)Hレスピット・サービス(弱者をケアしている人たちに少しの休憩時間を与える)・・・現在ハワイ全島におけるレシピエントは約1000人、ボランティアは850人。ボランティアになるには充分な審査のもとに本部(ローズ・ナカムラ女史)が認定し、年に数回の講習を受けなければならないが、ローズさんは言う「最も重要なことは、慈愛の心を持ち気力・体力の持ち主であることは勿論、相手(レシピエント)の人格・その人の人生の歴史・文化を尊重出来る人でなければならない」(左写真の左がローズさん、右はフローレンスさん)。
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某日、翁は(特別に了解を得て)フローレンスさんが(1年以上も担当している)B・Nさん(86歳)のお宅へ同行させて貰った(右写真の左がB・Nさん、右はフローレンスさん)。1時間ほどの歓談だったが、お二人の間に笑い声が絶えなかった。B・Nさんは言う「フローレンスさんに生きる力と生きていることの喜びを与えて貰っています」――フローレンスさんも控え目に語る「私は平凡な主婦で、特別に人を助ける力を持っている訳ではありませんが、誠心誠意、接することで喜んでいただけるなら、それは私自身の喜びでもあり、私の生き甲斐にもなるのですから、私の方こそ感謝です」あくまでも謙虚なお人である。「しかし、親しくしていただいたレシピエントとの別れの時は、身内の別れ同様に悲しく辛いです」その言葉は、フローレンスさんの優しいお人柄を偲ばせ、まさに“ダーナの精神“そのものを窺がわせる。
この『プロジェクト・ダーナ』は全米に、そして日本各地にもある。いずれ機会を見て東京の築地本願寺で更なる『プロジェクト・ダーナ』の研究をしてみたい、と思うのだが、果たして翁のような我が儘人間に(前述の)S・Nさんやフローレンスさんのような純粋な“ダーナ精神”が持てるや否や?ともあれ、今回のハワイの旅は、ゴルフ三昧のほかに、少しばかり“ボランティアの精神”に触れることが出来た“洗心の旅”でもあった・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |