龍翁余話(277)「豊かで平和で美しい国――こども憲法」
仕事部屋に飾りっぱなしの5月人形(9号鏡獅子)と兜を何年振りかでガラスケースから取り出し、日の丸の小旗と一緒に並べて“端午の節句”を迎えた。特別に意味のあることではないが“老いて童心に還る”の心境かもしれない。だが『こどもの日』にしては、まだ足りないものがある。やはり、鯉のぼりが欲しい。だからと言って、わざわざ買い求めるほどでもない。近所に鯉のぼりを立てているお宅があれば写真でも、と思って戸越(品川区)の住宅街を歩いて見たが(少子化のせいか)鯉のぼりが見当たらない。諦めて戸越銀座商店街をぶらついていたら、3歳児の手を引いて歩いている知り合いの若い夫婦に出会った。「お散歩ですか?」「鯉のぼりを探しに・・・」すると奥さんが「私たち、昨日“こどもの国”へ行って、沢山の鯉のぼりを見て来ました」“こどもの国”?さっそく場所とアクセスを教えて貰った。“犬も歩けば棒(幸運)にあたる”――
「老人が1人で“こどもの国”へ行くなんざ、場所違いか?」と多少の抵抗を感じながら、鯉のぼり見たさ(写真欲しさ)に翌日の昼前に家を出る。池上線・戸越銀座駅から旗の台駅で大井線に乗り換え、溝の口駅でまた田園都市線に乗り換え長津田駅へ。そこで今度は“こどもの国線”に乗る。やはり子ども連れが多いが、中には翁と同世代の夫婦連れもいる。少しほっとして7分間の車窓の田園風景を楽しむ。点在するメルヘンチックな家々の雰囲気が“こどもの国”への期待感を高めてくれる。
“こどもの国”入り口で貰ったガイド・チラシには「横浜市青葉区と東京都町田市にまたがる多摩丘陵の自然を生かした約100万平方メートル(東京ドーム約22個分)の児童厚生施設。サッカー場、テニスコート、プール、アイススケート場、バーベキュー場、牧場、キャンプ場、自転車乗り場、白鳥湖、動物園などのほか、いくつかの広場があって、簡単なゲームや読書、昼寝、ランチなどが楽しめる」と書かれている。
ゲートを抜けて正面の中央広場へ。おっ、泳いでいる!約20尾の真鯉や緋鯉が、勢いよく泳いでいる・・・♪・・・雲の波 重なる波の中空を・・・高く泳ぐや 鯉のぼり・・・
中央広場と隣の自由広場の間に鮮やかな芝桜の絨毯。自由広場では(数人の先生方に引率された)大勢の小学生が元気よくゲームに興じている。天真爛漫な子どもたちの笑い声、はしゃぎ声は、いつ聞いてもいいものだ。天高く泳ぐ鯉のぼりといい“華麗・忍耐・一筋”の花言葉を持つ芝桜といい、子どもたちの明るい未来を讃歌しているようで“端午の節句”にふさわしい。
ところで『こどもの日』にそぐわない話で恐縮だが、翁が“こどもの国”を訪れたのは5月3日の『憲法記念日』。第2次安倍内閣発足以来、憲法改正論が活発になってきた。日本の憲法は“世界最古の法典”と言われる。資料によるとアメリカでは(1787年に制定された合衆国憲法は)1992年までに18回改正、ベルギーも(1996年から2008年までに)24回、ドイツもこれまでに57回、フランスは24回も改正を行なっている。このように世界各国は、時勢に応じて柔軟かつ頻繁に憲法改正を図っているのに、日本で改正を困難にしている理由は何か?それは現行憲法第96条「衆参両院で総議員3分の2以上の賛成がなければ改正の発議すら出来ない」からだ。言うまでもなく翁は、安易な憲法改正は反対であり、
現行憲法の“平和思想”は不変の理念でありたい。だが、近年の諸外国からの武力脅威(北朝鮮)や領土・領海侵犯(ロシア・中国・韓国)から領土・領海、国民の生命・財産を守るための法改正、自然災害、テロ攻撃に備える国家非常事態対処条項の追加などについては大賛成、と言うより、急がねばならない。先般、日本青年会議所が(全国の若手経営者に対して)行なったアンケート調査でも、約86%が「現行憲法に問題を感じる」と答え、更に「自衛隊を国防軍とする」是非についても、賛成が約60%を占めている。
再び“こどもの国”の平和な風景に戻ろう。実は、この施設は1959年(昭和34年)4月の皇太子殿下(今の天皇陛下)のご結婚を記念して造成が開始され、6年後の1965年(昭和40年)に開園した、いわば今上天皇ゆかりの施設である。しかも、この“こどもの国”には、何と『こども憲法』が制定されている。(概要)【@自分の行ないに責任をもつ、きまり正しい国にします Aお互いの力で清潔な美しい国にします Bみんな仲良く手を取り合って世界につながる国にします C動物や植物を可愛がり平和な国にします D工夫と努力で楽しい国にします Eみんなで鍛え活気ある国にします F歴史や自然に学び知性溢れる豊かな国にします】――この『こども憲法』は(翁は)天皇陛下のおおみ心でもあると思いたい。憲法改正推進派も反対派も、天皇の御心を踏まえて議論してもらいたいと切望する“こどもの国”散策であった・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |