龍翁余話(240)「我慢は危険!熱中症」
7月以降、メールや電話、直接の挨拶は、おおむね「暑いですねえ」から始まる。本当に暑い。“暑い”を通り越して“熱い”。その“熱”によって命にかかわる様々な危険症状が引き起こされるので熱中症という言葉が生まれたのでは、と思っていたら、この熱中症、以前から医学界では使われていたそうだ。少し前まで、炎天下で帽子もかぶらず、長時間歩き回ったり、遊んだり、作業していると「日射病にかかるよ」と注意されたものだ。熱射病、というのもあった。それが最近は日射病とか熱射病という言葉を聞かなくなった。かわって登場してきたのが熱中症――そこで調べてみた。
そもそも熱中症とは“熱失神”、“熱けいれん”、“熱疲労“、”熱射病“など高温の環境下で異常熱によって起きる全身障害の総称だそうだ。つまり熱中症の中の1つに”熱射病“があり、更にその中に(太陽光が熱源となっている)”日射病“がある、ということらしい。しかし最近は太陽光に関係なく、生活環境の中に高温のサウナ状態となる場所が多く、高齢者などが家の中で倒れる事故が社会問題化してきた。つまり”日射病“という1つのくくりでは間に合わないほど原因や症状が複雑になっているので(昔、言われていた日射病や熱射病などを総称して)熱中症という言葉が定着したと言われている。昔だって炎天下の屋外や高温の部屋の中で倒れ、亡くなった人は沢山いただろうが、今のように重大な社会問題として(マスコミでも)大きく報道されていなかったように思うし、死因が”熱中症“
以外の病名で診断されたケースも少なくなかったのではないか。つまり、一般的にもマスコミ的にも行政的にも(熱中症を)今ほど重大視していなかったように記憶する。
ゴルフ好きの翁、多少の猛暑日でもゴルフ場に出かけ、周辺の友人たちから呆れられているが、確かに翁がメンバーになっている成田(千葉)のゴルフ場でも夏場には数回、救急車がやって来る(フロント嬢の話)。翁たちのように殆ど毎週、ゴルフをしているプレーヤーは猛暑日でも厳寒日でも“逃げ方”を知っており、それなりの防御策をとる。それでも「ヤバイ」と思ったら直ぐに中止する。ところが、年に数回しかプレー出来ない人やグループ・コンペ(仲間同士の競技会)参加者は、どうしても無理をする。グラッと来たのに我慢してプレーを続けていると「ヤバイ」の判断基準を狂わせ「ストップする」タイミングを逸する。ある(高齢の)ゴルフ友だちの話「炎天下でプレー中、急にめまいがしてコメカミが痛くなったが、まだ大丈夫と思ったし、自分が止めると言い出したら他の人に迷惑がかかるからと思って我慢してプレーしていたら、グリーン上で頭痛、吐き気に襲われ、結局、仲間やゴルフ場に迷惑をかけてしまった。救急車のお世話になる一歩手前でした」。翁、いくら「逃げ方を知っている」と言っても、この話はけっして他人事ではないので常に防御策を怠らないように心がけている。加えて普段から我が侭な翁、仕事以外の個人的な事では“我慢”が嫌いな性分だから“危険”を感じたら、一緒にプレーしている仲間に断って、1人、さっさと中断、乗用カートに乗って水分を補給したり冷たいタオルを首に巻いたりして休む。その方が仲間も安心する。「そこまでして(炎天下に)ゴルフするのか?」と身近な友人たちから顰蹙(ひんしゅく)をかっているのだが・・・
マスメディアは連日のように“熱中症”を報道している。市区町村でも頻繁に熱中症対策を呼びかけている。それでも熱中症事故は無くならない。7月23日から29日までの1週間に熱中症で救急搬送された人は(総務省消防庁の発表によると)8,686人(速報値)で、前週(16日〜22日)の約1.5倍(3,008人増)、1週間ごとの集計では今夏最多、死者も前週の13人から16人に増えた。消防庁が今年の調査を開始した5月28日から7月29日までの累計では、搬送者数は2万41人、死者は50人、8月に入ってからは更に急増しているとのことだ。都道府県別での救急搬送は、愛知県が668人でトップ、次いで東京都、埼玉県、大阪府、神奈川県、千葉県、兵庫県、福岡県の順(7月29日現在)となっている。地形条件、都市環境、地域別気象条件、人口密度などの影響度に関する細かな分析が見当たらないので順位の原因は定かではないが、1つ言えることは、どの地域でも搬送者・死者ともに65歳以上の高齢者が約4割を占めていること、幼児、10代の事故もけっして少なくないことが共通している。
お盆を過ぎれば猛暑もいくらか落ち着くだろうが「熱中症は猛暑日だけとは限らない」(環境省)そうだから、(今更だが)熱中症の主な症状と、自分たちが出来る応急措置の方法を再確認しておく必要がある。(突然)めまい、けいれん、頭痛、吐き気、しゃべり方がおかしくなる、反応が鈍くなる、などの症状が生じたら、とにかく涼しい場所に移動(体を休ませ冷やす)、水分補給(少しの食塩水もとる)、それでも回復に時間がかかりそうなら、手遅れにならないうちに救急車を呼ぶ。「我慢・忍耐こそが人間を作り成功に導く」という格言は古今東西、多くの先達(せんだつ)の遺訓に見られる。そのことは人間形成のうえで必須要件ではあるが、こと“熱中症”に関しては「我慢、忍耐こそが危険であり、災いの元となる」ことを肝に銘じておかなければならない。
さて、主題から外れるが、8月は日本にとって絶対に忘れることの出来ない怒りと悲しみの月。6日「広島」、9日「長崎」に投下された“ピカドン”被爆者への、67回目の鎮魂の月、世界へ向けて平和を発信する月。翁、小学6年生と中学1年生の時の8月9日に長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典へ、14年前の8月7日(祈念式典の翌日)広島平和記念公園へ行き原爆死没者慰霊碑、供養塔、碑文、世界各国から届けられた折鶴などに合掌した。この時期、耳をつんざくようなミンミンゼミの鳴き声を聞き、ジリジリと照りつける太陽を浴びると「ヒロシマ」「ナガサキ」に想いを馳せる。毎年、祈念式典のテレビ中継を視て思うのだが、あの炎天下、熱中症で倒れる人はいないのだろうか、いや、きっと“熱い祈りは熱中症を超える”のかもしれない・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |