龍翁余話(235)「鎌倉・紫陽花巡り」
翁が知らない間に、最近“龍翁余話を支援する会”なるものが誕生していた。旧友のA・Mさん(元・某美術大学教授)が仕掛け人。それは、きちっとした組織ではなく、どうやらメンバーはMさんが主宰する“スケッチの会”のお仲間らしい。(自称)「龍翁余話の愛読者」であるMさんがお仲間に宣伝してくれたお蔭でスケッチの会の皆さんが集まる時は、決まって“余話の読後感交歓会”(褒めたり、けなしたりの会)に発展するそうだ。Mさんのお話によると「現在の参加者は男性シニアばかり8名(平均年齢約70歳)。政治や行政、企業、マスコミに物が言えない、言っても届かないシニアの悲痛な叫びを『龍翁余話』で吼えまくって貰いたいという魂胆」だそうだ。執筆者の翁にとっては、少し気恥ずかしいような、嬉しいような、そして、まことに光栄な“余話親衛隊”の出現である。
先日、Mさんのお誘いで“スケッチの会”の“鎌倉・紫陽花巡り”に翁も同行させて貰った。品川駅14番線ホームの中ほどに午前9時半に集合。総勢(翁を含む)6名。Mさんが翁を(4人に)紹介してくれた。皆さん、笑顔で翁を迎えてくれた。握手も交わした。電車(横須賀線)に乗る前に幹事のMさんから手書きの地図が(全員に)配られた。地図には紫陽花の名所と本日巡るルートが記されている。そしてMさんから一言コメント「本日の鎌倉行きの目的はあくまでも“紫陽花観賞”です。スケッチする時間はありませんので、皆さん、デジカメに収めて後日、スケッチの会を催しましょう。歴史好きの龍翁さん、物足りないかも知れませんが、本日は“紫陽花一色”で、よろしくお願いします」もちろん、翁に異存があろう筈はない。
品川10時47分発の逗子行きの電車に乗る。(バラバラだったが)全員が座れた。翁、鎌倉にはこれまでに何回もドライブしたが電車で行くのは初めて。少しばかりウキウキ気分。発車後、間もなく、隣に座ってくれたMさんのレクチャーが始まる。鎌倉の紫陽花は鎌倉全域で見られるが、主な見所は“アジサイ寺”の名月院を中心とする北鎌倉と、長谷寺や成就院を中心とする長谷地域に分けられるとのこと。突然、Mさんから問われた「龍翁さんは“イワタバコ”の花をご覧になったことは?」翁、そもそも“イワタバコ”なるものを知らない――
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品川から50分ちょっとで北鎌倉駅に着く。まずは駅の直ぐそばの東慶寺へ。ご存知、江戸時代には“駆け込み寺”と呼ばれ、明治までは尼寺であった。Mさんに教えられた“イワタバコ”はこの寺の奥の岸壁に着生している。本日の主役は紫陽花だが、この“イワタバコ”は名月院の紫陽花と共に鎌倉の“花の名所”のひとつ、だそうだから早速カメラに収めた。
さて、名月院は“紫陽花寺”と呼ばれるだけあって、さすがに見物客が多い。ウイークデーなのに“紫陽花回廊”は牛歩。紫陽花の株は約2000株だそうだが、その数をはるかに超える見物客、あちこちで囀る日中韓語のピーチクパーチクで、ゆっくり鑑賞出来なかったのは残念だったが、青色と水色に統一された境内が禅寺の趣を濃くしていることだけは確かだった。
名月院からバスで鶴岡八幡宮へ。61段もある大石段を見ただけでも息が切れそうになったので(翁だけは)畏れながら石段下から拝礼。八幡宮から海に向かって真っ直ぐに伸びる若宮大路や昭和の雰囲気が漂う小町通りを歩くのも初めてなら、レトロな江ノ電に乗るのも初めて。電車の窓から手が届きそうな、線路脇の住宅の庭の鈴生りのビワが美味しそうだった。鎌倉駅から和田塚、由比ケ浜を経て長谷駅で降りる。“長谷観音”の歴史に触れたいが本日の目的は紫陽花観賞。観音堂に一礼して裏山の紫陽花回遊路へ。ピンクや黄、紫、白など色とりどりの見事な“紫陽花の丘”に見物客の足が止まる。紫陽花の隙間から見える長谷の街並みと由比ヶ浜の景観も見事だ(写真:左と中央)。
長谷駅から成就院のある極楽寺駅まで徒歩で10分程度、心地よい由比ヶ浜の潮風に吹かれながら歩くことにした。成就院は小高い丘の上に建つ800年以上の歴史を有する古刹。恋愛成就、学業成就のお寺と言われているせいか、若い見物客が多かった。門前から山門までの(急勾配の参道の)石段は除夜の鐘と同じ108段。その両脇に咲き誇る色とりどりの紫陽花の株数は般若心経の文字数と同じ262(但し、文字数には諸説あり)。長谷寺の紫陽花の丘から見る景色と同様、ここでも眼下に広がる由比ヶ浜の海が美しい(写真:右)。
梅雨の切れ目、初夏の陽射しに恵まれたその日の“鎌倉・紫陽花巡り”は、翁にとって初めてづくしの“感動の一日”であった。
幹事のMさんとお仲間4人に感謝して“アジサイ・ソフトクリーム”で乾杯(?)した後、実は、かねてより鎌倉幕府滅亡の引き金となった新田貞義の幕府攻めの拠点、稲村ケ崎の歴史を探訪したかったので、この機会にと思ってMさんや皆さんのご了解を得て1人、稲村ケ崎へ行った。そのことは次号に紹介する予定だが、Mさんグループ“余話親衛隊”のお蔭でどうやら『余話』のテーマが広がりそう。ご期待に副うため、もっと体力・学習力を高めねば・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |