龍翁余話(223)「河津桜とマグロ漁船」
「河津桜とマグロ漁船」――不釣合いのタイトルだが・・・急に
思い立った三浦半島への“気まぐれ旅”の顛末、いかが相成りますやら・・・ポカポカ陽気に誘われて春彼岸の中日、(友人に薦められていた)『三浦海岸河津桜』見物に出かけた。“桜祭り”は(数日前に)終わっていたが、三浦市観光協会に問い合わせたところ「まだまだ桜は元気です」とのこと。10時少し前、品川駅から京浜急行・三崎口行きに乗る。三浦半島には以前、城ヶ島や油壺などへのドライブ、金田湾での釣り船フィッシングに車で行ったことはあるが、電車で行くのは初めてだ。車窓を流れる景色も(翁の目には)いずこも新鮮に映る。快速特急で62分、終点三崎口駅の1つ手前の三浦海岸駅で降りる。駅員に河津桜を訊ねる。ここ三浦海岸駅から三崎口駅方面へ約1キロの場所にある小松ケ池公園(写真右=三浦半島有数の渡り鳥の飛来地)まで京浜急行の線路沿いに約1000本の河津桜が植えられているとのこと。大勢の花見客の後にくっついて歩を進める。
実は翁、友人に教えて貰うまでは『三浦海岸の河津桜』を知らなかった。河津桜と言えば伊豆半島河津町(約7000本)が有名、それとて1度も見物したことがないから河津桜については全くの無知。友人の話によると「三浦市は“桜の里づくり”として平成11年から植栽を始め、同14年から“桜祭り”を開催するようになった」らしい。15分ほど歩くと早や桜並木に入る。見物客の間から感嘆の声「うわ〜、綺麗!」「菜の花の香りもいいねえ」「ああ、春爛漫だ!」確かに翁も、初めて観る河津桜の華やかなフィナーレ(終章)に圧倒され、やたらデジカメのシャッターを切る。濃いピンク色の河津桜と今が盛りの菜の花の見事な競演が本格的な春の到来を告げているようだ。
歩いて三崎口駅に着いたのは昼を少し回った頃、空腹を覚え周辺を見回すと“三崎マグロ料理”“新鮮魚介料理”“マグロ寿司処”などの看板がずらり。一番近い“新鮮魚介料理”の店に入る。1回目の昼食客が去った後か、客席はガラガラ。カウンターに座り“今が旬の金目鯛”の張り紙を見て金目鯛の煮付けを注文する。「刺身が美味いよ」と店主らしきオヤジに薦められたが、翁は生憎、刺身は大の苦手、「そいつは残念だ、今朝、三崎漁港に揚がったばかりなのに・・・」話好きのオヤジ、カウンターの向こうで手と口を動かしながら翁に“魚の町・三崎”の自慢話を続ける。三崎漁港はマグロ、ブリ、キンメダイ、タイなどの陸揚量が常に全国2,3位、特に三崎のキンメダイは有名だそうだが、旬が冬季で荒天の影響を受け、漁が安定しないこと、漁師が減っていることなどで近年、漁獲量が減少し価格も高騰しているとか。確かにランチタイムにしては高い食事代だったが、味は満点だった。オヤジの話に乗せられて三崎漁港へ行きたくなった。「三崎口駅のバスターミナルから“城ヶ島行き”に乗って“三崎港”で降りなさい」・・・
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三崎港は三浦市の中心地区、昔から日本有数の近代漁港、遠洋漁業の基地として知られている。特にマグロの水揚げ高はトップクラス。マグロと言えば大間(青森県・下北半島)か有名だが、大間のマグロは津軽海峡が主な漁場、三崎マグロは主として遠洋漁業。偶然にも先刻、南米ペルーから帰港したばかりのマグロ延縄漁船『第8東栄丸』(439トン、乗員23名=写真右)に出逢った。真っ黒に日焼けした頑強そうな男たちが数人、船端やタラップでタバコを吸っている。「さっき着いたばかりで、税関の検閲が終わるまで陸(おか)に上がれないんだよ」人懐っこい笑顔で翁の問いに答えてくれたのは秋田の漁師・川端さん(57歳)。15ヶ月ぶりの帰国だそうだ。東日本大震災の時はペルー沖だった。「秋田のご家族は心配されているよね?」「なあに、家族は俺の出稼ぎに慣れているから心配はしていないさ。今は携帯電話も通じるしメールや写真も送れる。毎晩、連絡を取り合っているよ。“亭主元気で稼いで来い”だってさ(笑い)」「乗組員が途中で病気になったらどうするの?」医者は同行していないが、乗組員全員がちょっとしたケガや病気なら治療出来る医療研修を受けているそうだ。医薬品類も満載、「それに専門の栄養士(調理人)がいて乗組員の健康管理には万全を期している」とのこと。「水や酒、油、食料品の補給は?」行き帰りにハワイの港で補給、現場(ペルー)では操業期間に数回、近場の漁港に寄って不足の品を仕入れるそうだ。「近いうちに、また遠洋漁業に出る?」「たぶん、今年の暮れには三崎に戻る。また漁師仲間に会いたい。彼らは、皆、家族だからね」・・・
翁は以前、沖縄、台湾、オーストラリア、アメリカ(ニューオーリンズやサンフランシスコ)の漁場を取材したことがある。共通しているのは漁師たちの強固な絆(仲間意識)、ここ三崎港で久しぶりに“男の世界”を見た。『河津桜とマグロ漁船』どちらも爽やかで健やかな春の光と風を満喫した彼岸の一日であった・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |