龍翁余話(218)「何故無くならない?振り込め詐欺」
テレビや新聞などで“オレオレ詐欺”(“振り込め詐欺”)事件が、しょっちゅう報道されているのに、人(特に高齢者)は何故、こうも簡単に騙されるのだろうか?
いつもそう思うのだが、これらの詐欺事件に限らず、天災、人災も含め、人間、どこかに「自分だけは大丈夫だ」という“漠然とした安心感”や“過信”があるのだろう。実際に被害に遭ってみて、その“漠然とした安心感”や“過信”が、いかに“油断”であったか、ということに、やっと気づく。
ちょっと話が脇道に逸れるが、翁も若い頃からこの“漠然とした安心感“や“過信”のせいでいくつか失敗を経験し、今思い出しても悔しかったり恥ずかしかったりして苦い気持ちに陥ることがある。ただ、いずれも“大事”に至らなかったことは幸いであったが・・・加齢とともに“過信”はおろか“自信”も薄らぎ、近年はすっかり臆病になり、特に2009年と2010年の癌手術以後、健康に関しては不安がいっぱいで飲食は勿論のこと生活行動全般、例えば車の運転、混雑する道路や坂道、階段での歩き、電車やスーパーなど人混みの中では、かなり用心深くなった。よく言えば、この年齢になってようやく自己の危機管理(Self
risk management)を考えるようになった。変わらないのは“口の悪さ”だけ。
その“口の悪さ”は死んでも治らないが、たまには役に立つこともある。時々、わけの分からない電話がかかる。受話器を取って(低い声で)「おい」と言う。翁自身は「はい」と言っているつもりだが電話だと「“おい”に聞こえて感じが悪い」と知人から非難されることもあるが、それはさておき、わけの分からない電話の主は(男であれ女であれ)“電話慣れ”していて実に流暢に早口で「こちらは○○ですが」と、さも一部上場にありそうな企業名、または公的団体名に似せた名称を名乗る。「知らんな、用件を言う前に、君はいったい誰に電話したのか?俺のフルネームを言え!」と言い返すと「ああ、間違いでした」と言ってガチャンと電話を切る。「無礼者!」と怒鳴るが、後の祭り。たぶん、手当たり次第の電話セールスだろう。まさか、翁の所に“オレオレ”は掛けて来ないだろう(根拠のない“漠然とした安心感”?)
話を戻そう――電話やハガキなどで相手を騙したり脅したりして金銭の振り込みを要求する犯罪行為、つまり“オレオレ詐欺”“なりすまし詐欺”“架空請求詐欺”“融資保証金詐欺”“還付金等詐欺”などが従来は別々な名称で呼ばれていたが、警察庁では2004年12月から名称を統一して『振り込め詐欺』と呼ぶようになった。冒頭に述べたように、政府や行政機関、マスコミがあれほど警戒を呼びかけているのに、この種の犯罪がいっこうに無くならないことに、翁、非常な腹立たしさを覚える。騙す奴に対しての怒りは当然だが、騙される人も何故もっと用心しないのだろうか、不思議で仕方ない。やはり(前述のように)「自分だけは大丈夫だ」という“漠然とした安心感”があって、そこに“油断“(心のスキ)が生じる。詐欺師たちは(特に情の深いお年寄りたちの)心のスキ間(優しさ)につけ込んで息子や孫の災いをデッチ上げ動揺させた挙句、同情的な甘言や恫喝で金銭を振り込ませる、何とも卑劣極まりない犯罪だ。”オレオレ詐欺“や“なりすまし詐欺“がその典型だが”儲け話詐欺“のように「元金100万円で年利1割5分(15万円)の配当」などという、ちょっと冷静に考えれば(今の時代)そんなウマイ話があるはずもないのに“欲”に駆り立てられて、虎の子を根こそぎ持っていかれるケースも多い。ああ、哀れ!
警察庁がこのほど発表した『平成23年中の“振り込め詐欺”被害状況』を見ると、全国合計で発生件数6,255件、被害額約111億3,500万円。これは平成19年(約251億)、平成20年(約276億)から見ると激減したが、平成21年(約96億円)、平成22年(約82億)に比べれば、また増加傾向にある、という。これは犯罪発生件数が増えたのではなく、1件当たりの被害額が多くなった、と警察庁では分析している。
詐欺師たちの“振り込め”手口としては、息子や孫を装って「株で失敗した、その穴埋めをしなければ裁判沙汰になる」「会社のカバンを盗まれた」「誤って女性を妊娠させ慰謝料を払わなければならない」「自動車事故を起こした。相手の車は外車(高級車)」「友人の保証人になった」など。声で分かりそうなものだが、切り出しに「やあ、おじいちゃん(おばあちゃん)、俺、誰だか分かる?」「あ、太郎かい?」「うん、太郎だよ、風邪を引いて声が出ぬくいけど、ごめんね」、などと、こんなことで騙されることもあるので「安易に息子や孫の名前を口走ってはいけない」と警察では注意を呼びかけている。当初は単独で子や孫を演じていたが、近年は“債務者”を装って困窮を訴えるのに加え“債権者”役の男も電話口に出て「至急弁償をしなければヒドイ目に遭わせる」などと脅迫したり、被害を受けたと称する被害者役、担当の警察官役や弁護士役などを演じる
“劇団型”が増えてきたそうだ。
翁は常々、お年寄りの友人に「不審な電話が来たら、あれこれ問答しないで“相談すべき人物がいるので、その人と相談して返事をするから、電話番号を教えなさい”と言えば、たいてい(相手は警戒して)2度と電話して来ない」とアドバイスしている。実は先日、川崎市に住む独り暮らしの老婦人(長年親しくしていただいた翁の先輩=故人=の奥さん)から「龍翁さんのご忠告で難を逃れました」という電話を頂戴した。スペースの都合で内容は割愛するが、要するに“振り込め詐欺”に該当する“脅迫電話”だったようだ。翁の忠告というより、老婦人の落ち着いた、冷静な対応が功を奏したのだろう。勿論、しつこい電話やハガキなどは警察に相談することをお薦めするが、まずは“不審な電話は騙しの電話”と決め込んで間違いない。お年寄りたちよ、卑劣な詐欺師共に騙されるな、老人パワーで“振り込め詐欺”を殲滅しようではないか・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |