龍翁余話(216)「元関脇・土佐ノ海 断髪式・引退相撲」
元関脇の土佐ノ海(本名山本敏生、高知県安芸市出身、伊勢ノ海部屋、39歳)の『引退 ・年寄立川襲名披露大相撲』が昨日(2月4日)、両国国技館で行なわれた。引退相撲・断髪式は通常、現役引退後、半年くらいに期日が決められ、土佐ノ海も2010年12月に引退して翌2011年5月に実施する予定だったが、八百長問題の影響で延期、1年以上も過ぎてからの断髪式となった。
土佐ノ海(現・立川親方)と翁は、数年前に、ある友人から紹介され、これまでに数回のゴルフ、会食をしただけだが、実に礼儀正しく律儀な男。人気力士だったから交際範囲も政財界、スポーツ界、芸能界と多岐に亘るが、実質的な支援者ではない、単なるファンの翁に対しても毎場所の取組表や大相撲カレンダーを送ってくれるなど、実に親切に誠実に接してくれる(そのことは、これまでに数回『龍翁余話』で書いた)。翁は彼に対して現役時代は「関取」と呼んでいたが、引退後は「親方」。しかし、たまに間違えて「関取」と呼んでしまい「あ、ごめん“親方”だよね」と詫びると「いえ、私自身まだ“親方“とは呼ばれ慣れしていませんから」と翁の”呼び間違い“を笑い飛ばしてくれる優しい男だ。
土佐ノ海は、同志社大学相撲部時代から戦績には凄まじいものがあった。1992年と翌年、西日本と全日本体重別115キロ以上級で2年連続優勝、1993年の大学・実業団対抗でも優勝、大学では歴代6位の通算15個のタイトルを獲得し“東の尾曽(元大関・武双山=現藤島親方)、西の山本(土佐ノ海)と並び称され、2人は相撲界に入ってもよきライバル同士だった。大学卒業と同時に伊勢ノ海部屋に入門、1994年3月に初土俵、以来、幕下優勝1回、十両優勝2回と、とんとん拍子に出世して大関・横綱の最有力候補と期待されたが、ケガに泣かされ最高位は関脇。三役在位20場所(関脇7場所、小結13場所)、三賞13回(殊勲賞7回、敢闘賞5回、技能賞1回)、金星(横綱に勝った星)11個、これは歴代4位の偉業である。
さて『土佐ノ海引退・立川襲名披露大相撲』会場の東京両国国技館では午前11時の開場と同時に数千人の観客(ファン)が入場、鶴竜、豊ノ島、豊真将らが写真撮影、サインなどファンサービスに応じ、クルム伊達公子(テニスプレーヤー)、3代目中村扇雀(歌舞伎俳優)、北島三郎(歌手)らの花環が館内を飾っていた。
それでは、プログラムに沿って断髪式と引退相撲の模様を紹介しよう。午前11時20分、『ふれ太鼓』に次いで幕下の取組(5人抜き)。『髪結い実演』、『初切(しょっきり)』
(幕下以下の力士2人と行司が土俵上で、禁じ手を面白おかしく紹介する余興。例えば、
相手を蹴ったり頭を叩いたり力水を吹きかけたりドサクサにまぎれて行司を突き飛ばしたりのドタバタ相撲で館内は爆笑の渦)。『十両の土俵入りと取組』のあとの『相撲甚句』、これはなかなか味わいがある。土俵上で6〜7人が輪になって、中央に1人が出て七五調を独唱する。周りの力士たちは「どすこい、ほい、あ〜どすこい」などの合いの手を入れる。有名な甚句には『花づくし』、『山尽くし』、『出世かがみ』などがあるそうだが、随所に“相撲自慢”が詠われているわりにはどこか哀感がこもっていて、日本人の心情をくすぐる。♪・・・あまた名花のある中で 自慢で抱えた太鼓腹・・・四つに組んだる雄々しさは これぞ誠の国の華 ハアー ドスコイ ドスコイ)・・・
「18年間、共に歩んだ大銀杏に、別れを告げる時が来ました・・・」司会の石橋省三(元NHKアナウンサー)の名台詞に一瞬、館内が静まる。いよいよ『断髪式』の始まりだ。
立行司木村庄之助の捌きで出身地の高知県関係者、出身校の同志社大学関係者、後援会関係者、協賛企業数社、土佐ノ海の父親などのほか、タレントの木梨憲武、ヒロミ、俳優の梅宮辰夫、中井貴一、歌舞伎の中村扇雀(3代目)、野球評論家の江本孟紀らが次々とハサミを入れ、現役力士は豊ノ島、白鵬・・・そして共に競い合った盟友浅香山親方(元大関魁皇)、片男波親方(元関脇玉春日)、藤島親方(元大関武双山)の同時ハサミ入れの時は土佐ノ海の目が潤んだように見えた。
357人、2時間を超える断髪式も(土佐ノ海が入門から世話になった)先代伊勢ノ海親方(元関脇藤の川)の止め鋏で大銀杏が切り落とされ終了。「故郷、小中高大学の友や恩師、各界友人、後援会、行司・力士仲間、そして家族・親族、多くの人たちに感謝でいっぱいです。今後、日本大相撲発展のために微力を尽くす覚悟です」の挨拶と土佐ノ海のお母さん、奥さん、お嬢さん(1歳?)からの『花束贈呈』に館内割れんばかりの大拍手。そのあと『横綱綱締め実演』本番同様の『幕内土俵入り』『横綱土俵入り』『幕内取組』が行なわれた。
5時間半の長丁場に老体の翁、多少疲れはしたが初めて目にする力士の断髪式・引退相撲の“式次第”には学ぶべき日本の相撲道(伝統文化)がぎっしり。「礼に始まり礼に終わる」を再々実感した意義ある一日であった・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』 |