龍翁余話(209)「Dr.フジオ・マツダ氏のこと」
龍翁って、実に幸せな男だと思う。いつもそう思っている。リタイアした今でも、東京は勿論のこと各地に多くの親友がいて、ファミリー的お付き合いをしてくれる人、時々集まってテレビ番組やイベントなどの企画(アイデア)、ジャーナリズムの有り様、政治批判、悲喜こもごもの世相などを語り合うマスコミ関係のOBたち、ゴルフや釣り、アマチュア無線の仲間たち、そしてウイークリーのブログ・エッセイ『龍翁余話』の読者など、その人たちのお蔭で、翁は幸いなことに老いを忘れ、現役時代の気分を失わないでいる。(30年以上も)毎年旅行しているハワイでもそうだ。龍翁ファミリーのほか、元教育者、元政治家、法律家、宗教家、マスコミ関係者、アーチスト、ビジネスマンなど沢山の友人・知人が翁を歓迎してくれる。嬉しいことだ。ハワイの友人には白人、先住ハワイアン、フィリピン、韓国、中国などアジア系アメリカ人もいるが、多くは日系アメリカ人。毎年のことだが、年末になると、このような(国内外の)友人知人一人ひとりの顔を思い出し、心の中で“ありがとう”を言う。それが翁の、1年の締めくくりでもある。
日系アメリカ人とは、日本にルーツがある人たち、つまり19世紀末(1885年)政府公認でアメリカに移住した人々(一世)の子孫を言い、二世(現在90歳代〜80歳代)まではあるていど日本語を話せるが、三世(現在70歳代〜60歳代)、四世、五世のほとんどは日本語が話せない。2010年の統計によるとハワイ州(8島)の全人口は約136万人(オアフ島に8割)、そのうち日系人は約18万5千人、約13.6%だが、政治・経済・法律・宗教・学術・教育・スポーツ・音楽・芸能・マスコミなどの各界で活躍した日系人、今も活躍している日系人は圧倒的に多く、翁は、ハワイ(オアフ島)=(イコール)日系人の島、の観を強くしている。
今号にご登場いただく日系二世のDr.フジオ・マツダ氏も翁の大切な友人のお一人である。氏はアメリカの教育界ではとても有名な方だ。何故なら、1974年から1984年までの10年間、かの名門・ハワイ大学の第9代学長を務められた。日系人としては勿論、アジア系アメリカ人としても初めての学長である。氏はもともと(物理学・建築工学の)理工系の学者(マサチューセッツ工科大学で理学博士号を取得)だが、氏が学長に就任した頃のハワイ大学は、かなりの経営難だった。そこで氏は大学内の経費削減を図る一方、州議会に強力に働きかけ大学補助金の継続を約束させるなど経営改革を断行、教育的には天文学科設置、韓国学センター設立、海洋科学ビル建設、法学科、建築学科新設、スポーツ会館建設、ウエスト・オアフ・カレッジを吸収してハワイ大学西オアフ校とするなど多大な功績を残した。リタイア後も国際的な学術・教育交流、富士通(株)がハワイに設立した教育研究法人JAIMS(日米経営科学研究所=異文化の相互理解、グローバル感覚の経営者育成機関)のアドバイザーのほか、社会・高齢者福祉関連団体の要職を経て現在に至っている。
話は変わるが、日系二世と言えば、思い出すのが日系アメリカ人(二世)だけで編成された第442連隊戦闘団と第100歩兵大隊(後に第442連隊に編入)の、いわゆる“二世部隊”。ヨーロッパ戦線に投入され多くの死傷者を出したが、その勇猛果敢な戦闘ぶりはアメリカ白人たちを大いに驚かせた。米国史上、最も多くの勲章を受けた部隊としても有名だ。
龍翁ファミリーの中にミツオ・ハマスという第100歩兵大隊の退役軍人がいる。今年92歳のご高齢だが、週に数回、カラオケに通うほどお元気だ。15年前まではゴルフも ご一緒した。今年11月2日、米連邦議会は、第2次世界大戦中の“二世部隊”の活躍に対し『議会名誉黄金勲章』(米国国内外の一般市民に与える最高位の勲章)を授与した。式典には部隊に所属していた日系復員軍人や家族ら数百人が参列、米政府からも民主、共和両党幹部や各連邦議員が出席、大戦中の日系人に対する偏見、大戦での活躍に対する謝辞が述べられた。受賞は第442連隊出身でハーバード大学のススム・イトウ教授、第100歩兵大隊のミツオ・ハマスさんが代表で勲章を受け取った。翁、来年、ミツオさんにその勲章を見せて貰う約束をしている。
そして何と、Dr.フジオ・マツダ氏も18歳(大学1年)の時、志願して第442連隊に入隊。入隊後直ぐに軍の命令で第442連隊を離れ北欧へ行かされた、とのこと。
ところで、氏のご両親は山口県出身、奥様のご両親は広島、奥様のご祖母が被爆されたそうだ。1949年にホノルルの教会で挙式、クリスチャンの奥様に感化されて氏も洗礼を受けるが、2000年になって熱心な仏教徒の(氏の)お姉様を本派本願寺ハワイ別院に車で送迎してあげているうち“いっそのこと自分も仏教の世界を覗いてみるか”ということで本願寺の門をくぐった。氏のことだから“入門”も本格的。まず『ダンマパダ』(原始仏典の1つ、真理を追究した釈尊の詩集)を読破。そして生来、音楽好きな氏はクアイア(聖歌隊)にも参加した。87歳とは思えない迫力の低音(バス)がソプラノやアルトを支えている。
氏は今、クリスチャンであり仏教徒でもある。そのことについて奥様は「主人が仏教に関心を持ったことはいいことです」と笑顔でおっしゃる。おおらかで、なかなか魅力的なご婦人だ。氏は言う「キリスト教も仏教も、人間同士思いやり助け合う“愛”を謳っている」
まるでご夫妻の“夫婦愛”そのもの。そして嬉しいことに翁の座右の銘『恕』(人を赦し思いやる)の精神に通じる。「音楽のほかに先生のご趣味は?」と訊ねたら「茶道(裏千家)と書道」おお、氏は間違いなく“日本男児”。奥様の趣味は読書と生け花(小笠原流)、奥様も確かに“ヤマトナデシコ”。しかし「一番の趣味は主人を愛すること」恐れ入りました。ご夫妻のご健勝を祈りつつ・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |