龍翁余話(180)「大相撲5月技量審査場所」
本場所であれば両国・国技館の前は色とりどりの“力士幟” (四股名入りののぼり)が薫風に吹かれてはためいているはずなのだが、今年の五月場所は本場所にあらず、(『龍翁余話』177号で書いたが)“浅慮愚行の犯人捜し”をした八百長問題特別調査委員会の強引な提言で?「5月技量審査場所」という訳の分からぬ名称での開催だけに、館の前に“がんばれ日本”の幟が数本なびいているだけ、実に寂しい光景だ。しかし、両国駅から国技館までの沿道には大勢のファンが押しかけ拍手したり「○○関、頑張れよ!」と声援を送ったり・・・声をかけられた力士たちは一様に(照れ臭そうに)軽く頭を下げたり、顔をほころばせたりしてファンの声援 に応えている。どの力士も、あの陰湿な野球賭博問題や八百長問題の暗い影はなく、清々とした表情だ。こんな情景を見ていると、あの八百長問題(後述するが)もうこの辺で終わりにしようではないかという気になる。「5月技量審査場所」とは、興行色を一切排除し、観客へは無料公開という異例の場所。初日(8日)の会場で放駒理事長は「再発防止に取り組み、生まれ変わった相撲協会を目指す」と宣言した。つまり、八百長問題を受け本場所再開への“みそぎ場所”と位置づけられている。テレビ中継・入場料・天皇賜杯・懸賞金、アルコール類や相撲土産の販売など、全て“ないない尽くし”の5月場所だ。
「土佐ノ海(元関脇、現・立川親方)から14日(7日目)の招待入場券が届いている」とのゴルフ仲間のT君の知らせで、同日午後から同じゴルフ仲間のM君と3人で国技館へ出かけた(もう一人の仲間I君は所用で行けなかった)。立川親方とは3年前、翁たちのメンバーコース(ゴルフ場)での出会いから交友関係が続いている間柄。取組は、午前9時15分から前相撲が始まっている。前相撲とは、序ノ口の取組の前に行なわれる新弟子検査に合格した者や序ノ口から番付外に陥落した者たちの相撲のこと。新弟子合格者は、この前相撲で1番でも多く勝って翌場所の番付で序の口に四股名を付ける資格を得る。いわゆる“出世”である。前相撲のあと序ノ口、序二段、三段目、幕下と続く。勿論、それぞれの取組には若手の行司と5人の審判がつく。幕下相撲の後半からは呼び出しも行なわれる。
午後3時頃、十枚目(十両)土俵入りがあり、関取相撲(十両以上の力士による相撲)が始まる。呼び出しも行司も中堅どころ、5人の審判員も大関経験者が名を連ねる。本日の主審は元大関・増位山の三保ケ関親方。翁たちが席に着いたのはこの時刻だ。席は1階正13側3の“桝席”。天皇・皇后両陛下や皇族方がご覧になる2階のロイヤルボックスの真下辺りで見やすい席だが、土俵から25メートル程離れているので望遠レンズを持たない翁のデジカメで写真を撮るにはちょっと遠い。しかし、せっかくの立川親方のご好意、贅沢は言えない。その立川親方がわざわざ挨拶に来てくれた。断髪式(日程は未定)の前なので、まだチョンマゲのままで背広を着たネクタイ姿だった。『龍翁余話』(177)でも書いたが、彼は“大相撲新生委員会』の委員。いかにも実直で仁義に厚い男、彼のような真っ直ぐな人間が委員に選ばれたのだから”大相撲新生委員会“の活動は大いに期待したい。
さて、十両相撲になると、かつて幕内で活躍した(見覚えのある)ベテラン力士もいる。八百長問題の元凶と言われたクラスだが、本日の彼らの真摯な土俵態度を見る限り、八百長問題はもう遠い昔の話、そう思わせるほどの真剣勝負ぶりに、観戦している翁もつい力が入った。中入りは午後4時頃から。このあたりから客席はだんだんと埋まってくる。国技館の定員は約1万1000人だが、あとで調べたら昨日の6日目までは1日平均6,500人、7日目の今日は7,620人で最多の観客数だったそうだ。幕内力士の土俵入り、横綱の土俵入り(写真左)ともなると場内は俄然、熱気が充満し声援が飛び交って盛り上がりを見せる。
中入りからの審判部長は横綱経験者や長年の協会役員経験者が努める。最初の主審は貴乃花親方、審判員交代後の主審は中村親方(元関脇・富士櫻)。土俵上は、仕切りの時から異様な緊張感に包まれ、行司軍配がかえると物凄い気合(声)を発し“ゴツン”と音を立てて肉体がぶつかり合う。これはナマでしか味わえないド迫力だ。
それにしても何と外国人力士の多いことか、41人の幕内力士のうち18人が外国人、新入幕で破竹の7連勝(14日の7日目現在)の魁聖もブラジル出身。日本人力士よ、どうした!と渇を入れたいが冷静に考えれば白鵬のように日本人的になろうと努力している外国人力士もいる。本来“純血主義”の翁ではあるが、彼らが日本の伝統的精神(礼節)を重んじ
角界発展の一翼を担ってくれれば、それも良しとすべきか。そのためには相撲界体質改善と、相撲に人生を託そうとする若者たちの純粋な心が失われない人間教育の場が求められよう。本日のような“真剣勝負の土俵”が本物になるなら、もう八百長問題は終止符を打ち、文科省もマスコミも国民もこぞって“大相撲の新生”を温かく見守ろうではないか、と感じた「5月技量審査場所」(7日目)であった・・・と、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |