龍翁余話(157)「フラ」
毎年11月にハワイへ旅をして、オアフ島で度々訪れる場所と言えば、ゴルフ場巡りのほかに、パールハーバー(真珠湾)、博物館・美術館などがある。日本時間1941年12
月8日未明(ハワイ時間12月7日)、日本海軍は、オアフ島のアメリカ海軍太平洋艦隊の基地・真珠湾を攻撃、大東亜戦争(太平洋戦争)の開戦である。そのことは昨年のこの時期『余話』(107)で書いたので今年は割愛するが、翁、今回もまた湾上に浮かぶ(日本海軍に撃沈された)戦艦アリゾナ(記念館)に黙祷を捧げ乗組員1178人の冥福を祈った。
環太平洋で最大級の収蔵品を誇り、カメハメハ王家と関わりの深いビショップ・ミュージアム(ホノルル)も、翁が好んで訪れる場所。ハワイの人たちはどこから来たかなど、ポリネシアの歴史や文化を体系的に学べるだけでなく、翁が最も興味を抱くのはカメハメハ王朝史――カメハメハ大王(1世=1758年〜1819年)(写真左)は言うまでもなくハワイ諸島(7つの主島=ハワイ島・マウイ島・カホオラウエ島・モロカイ島・オアフ島・カウアイ島・ニイハウ島)を統一、1810年にハワイ王国を建国した人物としてあまりにも有名。なお、カホオラウエ島は現在無人島。かつて200人ほどの先住民が住んでいたが太平洋戦争中、米軍に収用され、50年あまり爆撃演習場として使用されていた。不発弾撤去の後、ハワイ州に返還される予定であり、すでに先住民が再居住を求めている。また、ニイハウ島はカメハメハ5世の時、英国からの移住者(ロビンソン家)が1万ドルで購入、現在も子孫が所有しているので、観光客は(特別ルートでなければ)上陸出来ない。
ワイキキのメイン・ストリート名でも知られるカラカウア大王(7世=1836年〜1891年)(写真中)は、史上初の日本を訪れた外国元首、明治天皇に拝謁した記録もある。ハワイ王朝
最後の国王(8世)はカラカウア大王の妹・リリウオカラニ女王(1838年〜1917年)(写真右)。在位は兄が亡くなった年の1891年(53歳で即位)から1893年までのわずか2年、アメリカ政府の執拗な策動で王位を奪われ、ハワイ王国も遂に83年の歴史に幕を閉じることになる。
その後ハワイ共和国が誕生するが、1898年にアメリカ領(50番目の州)となる。リリウオカラニ自身は一時期の軟禁も解かれ、1917年に(79歳で)没するまで静かな余生を送ったそうだ。日本でも有名な名曲『アロハ・オエ』は何と彼女が40歳の頃、自ら作詞・作曲したもの。もともと、人間と自然・神との一体感を詠ったものだが、結局は、祖国を失った最後の女王の悲痛な“別れの歌”になってしまったようだ。
“人間と自然・神との一体感”と言えば、それを全身で表現する踊り、フラがある。実は翁、フラはハワイで何回か見たことはあるが、それほどの興味関心も知識も持っていなかった。たまたま、ビショップ・ミュージアムで『フラ展』が開催されているということだったので、館内(2F)の“フラ・コーナー”を見学した。いやあ、フラについて何一つ知らなかったことに、ある種のカルチャー・ショックを覚えた。第一、日本人はフラのことを“フラダンス”と呼ぶが、フラとはハワイ語で“踊る”を指す言葉、したがって“フラダンス“は、”ダンス・ダンス“になる。日本フラダンス協会という団体があるそうだが、名称を変更したほうがよさそう。(余計なお世話かな)
フラは、民族衣装を着てウクレレの音楽に乗せ、腰を激しく振る踊り、と思っていたら、それは新しいフラ(ダンス)の傾向で、本来のフラは多少、趣を異にする。ハワイの人々
(先住民)は海・山・太陽などの自然(神)の恩恵を享受しながら生きてきた。それだけに神々を崇め讃え、儀式を行ない、祈り(踊り)を捧げた。また、文字がなかった時代に神々の伝説や先祖の話を伝えるコミュニケーション手段として踊りで表現した。そして言葉が誕生して以来、詩を理解して踊る“言葉ありきの踊り”と変化した。こうした習慣が根付き、フラはハワイの芸術文化の基を創り上げた。今回の旅行で少しばかりフラの歴史を学んだが、それはまた、いずれかの機会にということにして、翁が強い関心を抱いたのがフラに用いる古典楽器の種類。瓢箪をくり抜いたイプ(小さい瓢箪は法螺貝の役目をするウリウリ)、竹に切り込みを入れたプイリ、竹で出来た尺八のようなフルートなど、いずれも自然の恵みを有効活用したものばかり。翁は本来、何事も“観たり聴いたり試したり”で、実際に体験的に感じるものを描くことをモットーとしているが、フラは踊れないし今回は見る機会もなかった(上の踊りの写真は、ハワイの友人の提供)。ただ、フラの古典楽器を観察する中で、フラが、神々や自然への畏敬・感謝、人間同士の愛を物語る(伝える)神聖なコミュニケーション・ツールであることを知った。どこからか、メアオリ(朗唱者)の神への祈りのメレオリ(朗唱)が聞こえてきそう・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |