龍翁余話(124)「自転車の事故防止」
4月6日(火)から15日(木)までの10日間、「春の全国交通安全運動」が実施される。
重点目標は(例年、同じような目標だが)『子どもと高齢者の交通事故防止』をスローガンに@全ての座席のシートベルトとチャイルドシートの正しい着用の徹底、A自転車の安全利用の推進、B飲酒運転の根絶の3点。警察庁や内閣府・中央交通安全対策会議交通対策本部の発表によると、昨年(平成21年)の交通事故による死者数は4,914人で、昭和27年以来、実に57年ぶりに5,000人を下回ったという。確かに、ここ数年来、交通事故による死亡者数は、道路の改善や交通情報システムの整備、自動車自体の安全性の向上、救急医療の進歩、平成18年から取り組んできた飲酒運転取り締まり強化、そしてドライバーの安全運転意識の高揚などによって減少傾向にあることは喜ばしいことだ。しかし、警察が発表する交通事故死亡者数は、事故発生から24時間以内の死亡をカウントし、それ以後の死亡者は“負傷者”として記録されるので、交通事故原因の実際の死亡者数は5,000人を下回ったとは言い切れず、また、年間約90万人もの交通負傷者がいるという現実を見据える必要がある。
重点目標3点のうち、翁が特に声を大にして訴えたいのは“自転車の事故防止”である。狭い通路や歩道を“そこのけ、そこのけ”とばかり突っ走る自転車は、歩行者、特に子どもや高齢者にとっては恐怖であり、それは時として“走る凶器”になる。先日、翁が住むマンションの近くの商店街で目にした“自転車事故ドキュメント”。その商店街は、殆ど毎日午後4時を過ぎると買い物客でごったがえし、自動車進入禁止の時間帯となる。その代わり自転車がやたら増える。ある日の夕方、翁がスーパーで買い物を済ませ、道路に出た途端、左右両方から走って来た自転車同士、お互いを避けようとしてハンドルを切り損ね、左から来た高校生らしき男の子の自転車が、両手に買い物袋をぶら下げた60歳代の女性に接触、女性はよろけて膝を打ち、起き上がれない。買い物袋からは(スーパーで買ったばかりと思われる)品物が路上に散乱した。男の子は逃げようとしたが、周囲の通行人(多分、地元住民)男女数人に取り押さえられ警察を待たねばならないハメになった。一方、右から来た40歳代の主婦が運転する自転車は、たった今、翁が出たばかりのスーパーの入り口に盛っている野菜、果物の陳列棚に突っ込み、相当数のミカンやリンゴ、カボチャやサツマイモなどを道路に転がした。表(入り口)付近にいた30歳代の男子店員が自転車の主婦に「大丈夫ですか?ケガはないですか?」と気遣ったのは立派。しかし路上に転がった商品の弁償は免れない。
自転車は無免許で子どもからお年寄りまで気軽に乗れる便利でエコな乗り物として普及率は急速に高まった。他の交通機関との関連、地形条件などで都道府県別の普及率はまちまちだが、東京・大阪・京都などの都会地および隣接県での普及率は著しい。しかし、自転車とて車輌であることに間違いないし、自転車事故(自損、対人、対物)も確実に増加している。(平成21年の)警察庁の統計による自転車が関係した交通事故は、全国での発生件数156,373件、死者695人、負傷者156,276人。このような実態であるのに、自転車の保険の加入については自動車保険のような強制もないし(利用者の)保険加入意識も薄い。しかし、いざ、事故を起こして(加害者として)多額の賠償金が請求されるケースも出てきている。その事例(判例)を紹介すると、@道路右側を自転車で走行中、対抗してきた主婦の自転車と接触、転倒した主婦は頭部打撲で死亡、賠償金3,000万円。A無灯火の自転車で走行中、歩いていた高齢者と接触、高齢者は転倒して死亡、賠償金は同じく3,000万円。B女子高校生が夜、携帯電話をかけながら無灯火の自転車を走行中、電話に気をとられ、前方を歩行中のOLに背後から衝突、OLは歩行困難な後遺障害を負った。加害者の女子高校生に5,000万円の賠償命令が下る。C傘をさして自転車で走行中、交差点で他の自転車と衝突、相手は転倒して足を骨折、賠償金500万円(いずれも警察庁の統計から)。
道路交通法の中の自転車に関する法律もたびたび改正されている。平成19年7月10日に
決定された『自転車安全利用5則』によると、自転車も原則は車道通行、通行可能な歩道を通行する場合でも徐行して歩行者優先(罰則:3ヶ月以下の懲役、または5万円以下の罰金)。飲酒運転(罰則:5年以下の懲役、または100万円以下の罰金)、並進の禁止、指定自転車以外の二人乗りの禁止、信号遵守、交差点での一時停止、児童・幼児のヘルメット使用(罰則:いずれも2万円以下の罰金)のほか、上記(判例)の夜間のライト点灯、運転中の携帯電話の使用、傘さし運転の禁止(罰則:いずれも5万円以下の罰金)などがある。更に付け加えて貰いたいのが自転車走行中の喫煙禁止だ。あれは見苦しいし実に危険だ!
30年、40年前、台湾をはじめ東南アジア諸国を取材した際、朝夕の“自転車ラッシュ”を見て「これぞ開発途上国らしい光景だ」と、ある意味、見下したような感想を抱いたことがあったが、今のエコ時代、その感想は飛んでもない間違いであったと反省する。地球環境に配慮したエコ自動車と自転車の普及は“エコ先進国”への第1歩と言わなければなるまい。が、そうなると自転車に起因する交通事故が新たな社会問題となるは必定。これまでのように自転車利用者への精神的訴え(安全走行の注意)だけで治まらない。そこで翁が注目しているのは、警察庁交通局が推進している『自転車事故防止への重点的取り組み』の中の『自転車走行空間の確保』だ。すなわち、道路管理者と連携しての自転車専用道、または自転車・歩行者共有道の整備、自転車通行部分の指定(規制)など自転車事故を防ぐためのファシリティ(施設・設備及びそれらの最も合理的、効率的な管理運営のノウハウ)の確立だ。そういう整備が出来れば、翁も健康維持のために自転車愛用家に転じてもいいと思う(実は、子どもの時しか乗ったことがないのでコワイのだ)・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。
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