龍翁余話(57)「箱根ドライブ」
「箱根へ、紅葉と富士山を見に行こう」と、11月上旬、九州から来た客人を乗せて久しぶりに東名高速を走った。大井松田辺りで霞んだ富士の全景をみとめることが出来たが、よく見えるはずの足柄サービスエリアからは、厚い雲に覆われてサッパリ。「芦ノ湖スカイラインの三国峠からだったら多分、見られるはずだ」と期待をかけ、車を御殿場、乙女峠、仙石原へと走らせた。
運転免許取り立ての頃は(冬季を除き)たびたび“箱根ドライブ”をしていた。そして、ここ仙石原ゴルフコースの脇を通るたびに、いつも夢を膨らませていた「オレもいつか、この美しいゴルフ場でプレーが出来る身分になりたい」・・・そんな思い出話を客人にしながら芦ノ湖へと向かいかけたが、その時、ふと、親友Jさんからのメールが頭をよぎった。「先日、箱根ガラスの森へ行って来ました。よかったですよ」のお知らせ。「よし、まずは、そのガラスの森へ行ってみよう」Jさんには申し訳ないが、たいして期待も持たないでカーナビをセットした。カーナビに頼るまでもなく、あちこちに案内標識があり直ぐに到着。チケットを買って館内に足を踏み入れた途端「おっ、これはヨーロピアン・モードだ!」客人も感嘆の声を発した。早速 、Jさんにお礼の電話。「箱根でイタリアを見ようとは・・・いやあ、実に気に入りました。情報提供に感謝します」Jさんも喜んでくれた。
後方に大涌谷を眺望するガラスの森の庭園中央に、滝をイメージしたガラスのカーテン
『光の回廊』。時々、雲間からこぼれる秋の太陽に反射してクリスタルガラスが絶妙な色彩を放つ。まさに芸術だ。
池の水面には数個のフォンターナ(噴水をイメージしたクリスタルガラス)。
パンフレットには「木の橋を渡って歩み入れば、そこは往年のヴェネチアの街」とある。なるほど、随所にそれらしき建物が点在する。小さな水車小屋の脇を通って、せせらぎ(早川)のほとりにある憩いの広場へ行く。途中にクリスタルガラスで作られた樹木の数々、幸福の鐘、クリスタルガラスのアジサイ園などが翁たちをメルヘンの世界へと誘(いざな)う。“ここで一服したら、さぞかし美味いだろう”とタバコに手をかけたが、止めた。こんなきれいな空気を汚してはいけない、ではない、吸う場所がなかっただけ。
メイン・スポット『ヴェネチアン・グラス美術館』に入る。日本初の本格的なヴェネチアン・グラス美術館として、1996年にオープンした、とある。ここには600点以上のヴェネチアン・グラスが所蔵されていて、常時100点位を展示しているそうだ。レース・グラス蓋付ゴブレット(16世紀〜17世紀)、ヴァンジェリスティ家紋章コンポート(16世紀末〜17世紀初)、ミルフィオリグラス花器(1890〜1910年)・・・と、展示品のキャプション(説明)をメモしていたが、止めた、正直、翁には何が何だか分からない。だが「15世紀から18世紀にかけてヨーロッパ貴族を熱狂させたヴェネチアン・グラスは卓越した技を尽くした美の極み」とパンフに書かれているだけあって、確かに芸術的な造形や色彩の美しさだけは充分に楽しむことが出来た。
さて昼食時、イタリアン・レストラン『カフェテラッツア』に入った。いいタイミングで本場イタリア人歌手によるカンツオーネが始まった。翁の知らない歌ばかりだったが、その声量はさすが。どうせなら日本人によく知られているイタリア民謡「オーソレミーオ」、「帰れソレントへ」、「サンタ・ルチア」、「カロ・ミオ・ベン」などを歌ってくれればいいのに、と思ったが、ともかく、秋の箱根で思いがけずイタリアの雰囲気に浸ることが出来たことは幸いだった。
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この時季(11月上旬)、箱根の紅葉はまだ早かった。芦ノ湖で一服した後、スカイラインに乗る。願いは“遠来の客に何としても間近で富士の御山を拝ませたい”だったが、三国峠でも厚い雲に阻まれた。「あの雲が切れたら・・・」数組の観光客もカメラを片手に、長い時間、辛抱強く待っていた様子。「この先の山伏峠だったら、もしかして・・・」と微かな期待を抱いたが、そこでも御山の神は翁の願いを叶えてくれなかった。もう一つガッカリしたのは、三国峠のすぐ傍に、命の泉という湧き水があって、以前は、美味しい(と思える)水が飲めたのだが「この水は飲めません」の立て札。ああ、ここも環境汚染か・・・
このあとドライブは湘南バイパス経由で茅ヶ崎、江ノ島、鎌倉へと続く。鶴岡八幡宮に参拝して大仏へ。箱根〜湘南の大型ドライブに客人は大いに満足してくれたようだった。走行距離約180キロ。翁も自分の体力、健康に満足。それぞれの場所でも綴りたいエピソードはあるのだが、やはり、本日の最大のハイライトは箱根ガラスの森。もう一度、Jさんに感謝・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |