4月1日、日本では多くの企業が新入社員を迎え、入社式の様子がニュースとして報じられました。
毎年、新入社員の特徴を発表している財団法人社会経済生産性本部によると、今春の新人の特徴は「カーリング型」なのだそうです。
冬期オリンピックでおなじみになった氷上の競技のカーリングと同じで、今年の新入社員は磨けば光る玉ではあるが、会社や仕事への執着が薄いため受け入れ職場は彼らのために仕事を決めてあげ、その上、背中を押してあげなければならない。少しでもブラシでこするのをやめると減速したり、止まってしまう。かといってブラシで磨きすぎると目標地点を越えてしまったり、はみだしてしまったりしかねない、というわけです。要するに今年の新人は「自立意識が乏しく、周囲の配慮や指導が必要な人種だ」ということなのでしょう。
今春の日本の就職事情は求職側に有利な売り手市場であり、就職氷河期といわれた数年前とは大きく異なり若者たちは「氷の上を滑走する石のごとくスムーズに就職できたのだ」と前記社会経済生産性本部は説明しています。
しかし、就職は楽であっても日本の経済は先行き不透明であり、国際競争の中で厳しい立場であることには変わりありません。次の世代を担う新人たちの前には荒れ狂う波が待ち受けています。
日本が世界に誇るトヨタ自動車の入社式で渡辺社長はその挨拶の中で新人の安定志向を戒め、「急速な円高や資源価格の高騰など、環境が一変しています。新入社員の皆さんには、トヨタは安定していると思っている人もいるかもしれません。しかしながら奢れるものは久しからず、常にチャレンジ精神をもってみずからを成長させてほしい・・・」と訓示している様子がニュースで流れていました。
今、企業は新入社員にどんな人材像を求めているのかについて日本の経済産業省が去年ひとつの調査を公表しました。3,700社あまりが答えているのですが、それによると、新入社員に期待する資質として、「実行力」、「主体性」、「課題発見力」の三つを挙げる企業が多かったということです。
また、今年は受け入れ企業側も、新入社員の資質を引き出すために従来の形式にとらわれないユニークな入社式をしている企業が増えているそうです。
数日前観たNHKTVのレポートによると、東京都内のアミューズメント会社では新入社員たちに入社式をプロデュースさせ、彼らの前向きな気持ちを駆り立てて実行力、主体性を発揮させようとしているそうです。そこでは結婚式の形式をとった入社式で、新婦はこの会社の女性社長、新郎は新入社員たち12人だったとのことでした。入社式を結婚式になぞらえることの是非はともかく、これからは会社側としても、新入社員のモチベーションをキープし色々な仕掛けを作ってゆく必要があるようです。
ふつう入社式といえば、まず会社トップである社長が「訓示」をし、新入社員が「決意表明」をするのが一般的です。でも、会社側が新入社員に「実行力」、「主体性」、「課題発見力」の三つを期待するなら、いっそのこと、次のような逆転の発想をして、次のような入社式はいかがでしょうか。即ち、入社式では、先ず新入社員(または新入社員の代表)がその企業の経営のあり方について問題点を提起し、改革案を示すのです。そして社長以下経営トップは、それに答えて新入社員の前で“決意表明”をするのです。
そのためには、新入社員は自分たちが参加する会社について事前に真剣に調査し考えねばなりません。若者はそのくらいの根性と責任感を持って将来を託す企業を選ぶ必要があるのではないでしょうか。
また、「個人主義」の国といわれるアメリカに対し、日本は「集団主義」的考え方が中心で、自分の所属する集団(家族、会社、社会、など)の利益が個人の利益に優先し、従って集団の前には「個の自立による自己主張」などと言うものは無いか又は無視されるという考え方が一般的です。
でも日本国内で多発する企業に絡む犯罪(贈収賄、隠蔽、粉飾、帳簿隠し等)を見ていると、企業内論理だけが優先し、役員・従業員がこぞってその犯罪行為に荷担している場合が多いのに驚かされます。これは明らかに「集団主義」のはき違いであり、その企業のためを思うなら、所属するいかなる個人もメンバーの一員として「個の自立による自己主張」即ちこれら犯罪行為は間違いであると意見具申をすべきなのが本来の「集団主義」のあり方ではないでしょうか。
もっとも現在の日本ではどんなに犯罪を犯してもそれが集団(会社)のために行った行為であり、自身の利益の為でなければ世間はむしろ同情し、建前はともかく本音のところでは賞賛する風土であり、一概に荷担行為だけを非難するのは余りにも現実離れの議論であることも確かです。
日本的と言われる「人と人との関係」を重視し、「人の和」を大切に考える「集団主義」的発想は大いに結構ですが、同時に欧米型の個人主義とは違った日本独特の「個の自立」といったものをこの際生み出す必要があると思います。
「実行力」、「主体性」、「課題発見力」を本当に求めるのなら、企業も従業員も従来の考え方から脱し変革する必要があると思います。
河合将介(skawai@earthlink.net) |