――― 前号より続く ―――
米国内でも一段と禁煙に関する先進地域であるカリフォルニア州は、1994年には働く場所での喫煙を禁止する法律を成立させ、1998年には壁で囲まれた場所における喫煙を完全に禁止する法律を成立させています。また同年、職場で働く従業員を、間接喫煙から守る目的で、レストラン、クラブ、バーまでもが禁煙の範囲とする禁煙条例が施行されました。
レストランやクラブで働く従業員は職場がタバコの煙に満ちていた場合、副流煙から逃れるすべはないわけです。医学専門誌によると、8時間このような環境で働いている人は、自分の意思とかかわらず、1日1箱分の煙草を吸っていることになるのだそうです。
また、この州は全米でも早くから受動喫煙の被害に注目していた州として知られ、今年(2007年)1月には、初めてタバコの煙を「大気汚染物質」と認定したほどです。スモーカー(喫煙者)に対する包囲網が近年、ますます狭くなってきました。
カリフォルニア州全体としては、先日シュワルツェネッガー州知事が18歳未満の子供が同乗する自家用車内での喫煙を禁止する法案に署名しました。子供の受動喫煙を防ぐのが目的で、2008年1月に発効することになっています。
さらに、州全体ではありませんが、州内の一部の市では喫煙禁止を市議会が条例として法案化するところが相次ぎ、従来の職場や飲食店など公共スペースに加え、個人のアパート室内や車中といった私的空間での制限する規則を定める市まで現れています。
州北部ベルモント市議会は全米で最も先鋭的で厳格とも呼ばれる禁煙条例を暫定可決し、2009年1月から分譲マンションや賃貸アパート室内での喫煙を禁じ、罰金も最大千ドルと高額になっています。これらのアパートのような私的空間では苦情が続けば、喫煙者に退去を命じる可能性さえありうることになっています。そうなるとこの市では喫煙が可能な場所は、1戸建ての敷地内か、近くに民家がない路上くらいになってしまうようです。
新聞報道によると、ベルモント市は複数の高齢者向けのアパートやコンドミニアムの住人から、隣室からの副流煙で健康被害を受けているという訴えを受け、アパートやコンドミニアムでの喫煙禁止を法案化することに決定したとありました。当初、この市当局は、市内全域のいかなる場所も禁煙とする方向で検討を進めていのだそうです。これに対し、市議会が妥協案を出すかたちで、「共有空間を有するあらゆる建物を禁煙とする」ということで最終的に決着したのだそうで、この市当局の禁煙に対する意気込みのすごさを感じます。
愛煙家にとってはまことにお気の毒としかいいようがなく、彼らにとってこれらの規則は地獄の苦しみ条例といわれそうですね。
最近の新聞記事によると、カリフォルニア州では上記ベルモント市だけでなく、例えばロサンゼルス近郊の超高級住宅地として知られるビバリー・ヒルズ市ではレストラン屋内だけでなく、屋外席を全面禁煙としようとしています。
また、同じくロサンゼルス郊外の高級住宅地でありマリブ海岸近くのカラバサス市は「クリーン・エア・カラバサス」のキャッチフレーズの下、禁煙都市を宣言し、今年(2007年)3月には、すでにカリフォルニア州法で禁煙とされている職場、公共の施設などの屋内や公園・子供の遊び場などの屋外だけでなく、「特に指定された場所以外」のあらゆる屋外での喫煙を禁止する条例を制定しました。
この条例は全米でも極めて厳しいレベルのものであり、集合住宅の共用施設、ショッピングセンター、レストラン、バーなどの多数の人が利用する場所と、その出入り口は全て禁煙。また、非喫煙者から20フィート以内の屋外では、非喫煙者の同意がなければ喫煙できないことになります。
尤も、マリブ付近は山火事の起きやすい地域でもあり(今年、2007年10月、11月に大きな山林火災がおきました)タバコの火の不始末による火災防止の意味合いもあるようです。
一方、このようにアパート内のような私的空間にまで規制が及ぶような極端な禁煙条令に対し、米国らしい自由と権利を主張する主張もあるようで「自宅内までも禁煙の対象にするのは公民権および不動産所有の自由に反する」との反発も出ており、折角作った禁煙条例からアパートとマンション内での禁止条項を削除した市(オークランド市など)もあるようです。
先日、私は日本へ一時帰国した際、鉄道駅のホームの隅にわずかに設置された喫煙コーナーで片寄せあって喫煙する人たちを見かけました。また、友人の一人が「最近は女房よ娘がうるさくてマイカーでも自宅の居間でもタバコを吸えず、ベランダで淋しく一服しているよ」と嘆いていました。
私は日本へ行くたび、友人知人に「アメリカに遊びに来ないか。面白いところを案内するよ」と言い回っていますが、彼にだけは言いそびれています。近年日本人の喫煙率もかなり低くなっていると聞きます。かつてはテレビやラジオで「タバコは動くアクセサリーです!」などと広告し、甘い言葉で誘惑しておきながら、今になって「悪魔の煙」と罵しられても納得いかない愛煙家も多いことでしょう。すでに喫煙習慣のある人にとって禁煙がどれほど困難であるかよく聞くことです。私は45年前、中毒になる寸前に喫煙を思いとどまさせてくれたあのテレビ番組に今更ながら感謝しているところです。
河合将介(skawai@earthlink.net) |