龍翁余話(616)「横浜三塔」
翁は若い頃から横浜が好きだ。大分県の田舎で生まれ育ち、中学後半から高校時代の4年間を神戸で過ごした翁にとって神戸への郷愁が(共通点の多い)横浜と重なっているからだろう。共通点と言えば――今から162年前の1858年(安政5年)に締結された日米修好通商条約で横浜・兵庫(神戸)が開港したこと(長崎・函館・新潟も開港)。欧米人などの外国人が住みつくようになり洋館が増えたこと(異国情緒が漂うようになったこと)。赤レンガの倉庫が増えたこと。中華街が出来たこと。港の傍にはシンボル・タワーが建ったことなどが挙げられる。但しシンボル・タワーの歴史は新しい。横浜マリンタワーは開港100周年を記念して1961年に建設(高さ106m)、その2年後(1963年)に神戸ポートタワー(108m)が建設された(両タワーは、いずれも翁が上京した後に建てられた)。横浜は神戸と同様、歴史的建造物(教会・金融機関ビル・商業ビル・公的機関ビル・学校・道路・橋梁、個人住宅、その他の西洋風建物など)が多く、その数は100箇所を数える。
歴史好きな翁、生きている間に出来るだけ多くの(全国各地の)史跡巡りをしたいと思っているのだが、老齢化に伴ってなかなか思いが実行出来ない。そこでNHKオンデマンド(視たい番組をインターネットで視ることが出来るシステム)で“史跡巡り”類の歴史番組を視たり、JRのジパング倶楽部会員に送られる月刊「旅マガジン」で知識を得たりしているのだが、やはり物足りないものがあって足腰が丈夫なうちは(近場なら)出来るだけ出歩きたい欲求に駆られる。
先日、久しぶりに横浜へ出かけた。読者各位は『横浜三塔』をご存知だろうか?実は翁、これまでに何回も取材(撮影)に行ったり遠来の客人を案内したりして多少は“横浜通”を自認しているのだが『横浜三塔』についてはその存在は元より名称すら知らなかった。教えてくれたのは翁たちグループ(シニア会)のメンバー・Mさん(元高校教師)だった。
「3月10日は“横浜三塔の日”、3(さん)と10(とう)の語呂合わせ」だそうだ。調べてみたら2007年(平成19年)に横浜市が(観光振興のために)制定したと言う。『三塔』とは中区の「神奈川県庁本庁舎」・「横浜税関本関庁舎」・「横浜市開港記念会館」の、それぞれの建物の屋上に建てられた『塔』のこと。この3つの建物は、いずれも歴史的建造物なので翁も(これまでに)客人たちと一緒にそれらの建物の前で記念写真を撮ったりしたものだが(前述の通り)屋上の『塔』の存在を意識(注視)することは無かった。
小雨の続く3月初旬、たまたま晴れ上がった某日、「東急目黒線・武蔵小山駅」から電車に乗り「日吉駅」で「みなとみらい線」(横浜高速鉄道)に乗り換え「日本大通り駅」で下車。電車の乗客数もそうだったが、路上に出て車や通行人の少ないのに驚いた(時刻はランチタイム前)。やはりコロナウイルスの影響だろう。人混みではないが翁、マスク着用のまま「神奈川県庁本庁舎」〜「横浜税関本館(本関庁舎)」〜「横浜開港記念会館」の順に回る。なるほど、それぞれの建物の屋上に凛とした『塔』が見える。
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県庁本庁舎(キングの塔) |
税関本関(クイーンの塔) |
開港記念会館(ジャックの塔) |
神奈川県庁本庁舎は1928年(昭和3年)に再建された4代目。王冠のような塔屋と歴史の風格が漂う荘厳な建物はまさに『キング』だ(高さ約49m)。屋上からは、みなとみらい・大桟橋・ベイブリッジ・象の鼻パーク・赤レンガ倉庫・山下公園・マリンタワーなどの観光名所がパノラマで一望出来るそうだが残念ながら翁が訪問した日は閉館(他の2館とも)。コロナウイルス感染症拡大防止のための措置だろうと(外観撮影だけで)諦めた。
横浜税関本関庁舎は、1934年(昭和9年)建築の3代目(高さ約51m)。イスラム寺院風デザインの『塔』は、世界の船を迎え入れる“海のエントランス”にふさわしい優しさと暖かさが感じられる。まさに『クイーン』の愛称がぴったりだ。
『ジャックの塔』と呼ばれる横浜開港記念会館の正面のタワーは、三塔の中で最も古く、横浜開港50周年記念として1917年(大正6年)に竣工(高さ約36m)、『キングの塔』、『クイーンの塔』よりも早くから横浜のシンボルとして市民に親しまれて来た。外観を見る限り、翁は、この建物に一番の“異国情緒”と“歴史”を感じる。
ところで『キングの塔』『クイーンの塔』『ジャックの塔』の愛称はどうして生まれたのかを調べたら、当時、横浜港に入港して来た外国船の船員たちが持ち込んだトランプのカードにそれぞれの建物の屋上の造形をなぞらえたのが発端だとか。ところが翁、3つの建物の屋上の写真を見たが、どの屋上も『K』『Q』『J』を当てはめるには無理がある。しかし、由緒がどうあれ、この『三塔』の愛称はすでに横浜市民に浸透し、間違いなく横浜のシンボルであり歴史なのだ。3月10日は『横浜三塔の日』――例年なら、さまざまなイベントで賑わうのだが、今年は新型コロナウイルス感染症拡大防止を図るため「全ての催しを中止する」そうだ。(新型コロナウイルス感染源の1つ)「ダイヤモンドプリンセス号」は今、横浜ベイブリッジ中央部の近くに停泊し徹底的に消毒作業を行なっている。『横浜三塔』はその姿をどんな思いで見ているのだろうか・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |