龍翁余話(615)「火災シーズン」
はや「弥生(3月)」――「弥」は「いよいよ」と言う意味。「生」は文字通り「生命の誕生」とか「生い茂る」と言う意味がある。3月6日は「啓蟄(けいちつ)」。「啓」は開く、「蟄」は土の中で冬ごもりをしている虫のことで、大地が暖まり始める弥生に虫たちが地上に出て来て活動を開始する。昔から「3月はまだ冬の名残り」と言って寒い日もあるが、近年、地球温暖化の影響だろうか、平均気温が高くなって来たように感じる。現に気象庁の2020年3月の気象予報によると「今年の3月は、北日本の日本海側は平年に比べ曇りや雪、雨は少なめ。北日本の太平洋側も晴れの日が多い。関東から九州では、天気は短い周期で変わるが平年に比べ高め。桜も記録的な早さで開花する地方が多く福岡では16日頃、東京は17日頃が開花日と予想されている」とのこと。土の中の虫たちの活動も活発になるだろう。とは言え春先は“三寒四温”(寒い日が3日続いた後、4日間くらいは暖かい日が続く)が3月の気象の特徴。「平年より暖かい」とは言うものの、飛びっきり寒い日もある。寒暖差アレルギーの翁にとっては“要警戒の時期”でもある。
“要警戒の時期”と言えば、日本は今「新型コロナウイルス感染騒動」の真っ只中、政府は感染拡大防止に躍起になっている。早い終息が待たれるが、もう1つ我々が注意しなければならないのが『火災』だ。『火災』と言えば乾燥シーズンの冬、と言うイメージが強いが、実は「火災が最も多いのは3月」なのだ。「平成30年版消防白書」によると、2018年度に全国で発生した火災発生件数は3万7,981件、死者数は1,427人、負傷者数6,114人。1日当たり約104件の火災が発生(約15分に1件)、約4人が死亡、約17人が負傷している。そして、最も火災の多い3月の発生件数は(2018年)4,198件、1日平均135件(年間の1日平均より31件も多い)。春は乾燥、強風の日が多いからと言われているが、それは“延焼誘発要因”であって“直接発生要因”(原因)は、あくまでも“人”である。
『火災』原因は、「平成30年版消防白書」によると第1位は(例年と同じ)【タバコの火の不始末】(3,712件)――“寝タバコ“が圧倒的に多いが”ポイ捨て“による火災発生率も目立つ。歩きタバコや車からの”ポイ捨て“は、マナー違反どころか犯罪である。そして更に許せないのは第2位の【放火)】(3,528件)――特に多いのが”空き家狙い“。警察庁や消防庁の分析によると「空き家には門扉が無く施錠されていない、人目につきにくい、などで侵入しやすい。空き家には燃えやすい枯草やゴミ、紙くずなどが散乱しており放火魔の狙い所」とのこと。また、地域的には建物密集地の都会に多く、東京(1,504件)、大阪(802件)、埼玉(765件)、神奈川(651件)、愛知(618件)となっている。いずれにせよ「放火犯は厳罰に処せ」と翁は言いたい。現在でも(現住建造物放火と空き家放火では多少の違いはあるものの)現行法では死刑・無期懲役・5年以上の有期懲役、つまり殺人罪(刑法199条)と同等の重罪とされてはいるが・・・
『火災原因』の第3位は【コンロ】(3032件)――調理をしない(台所のコンロは使わない)翁にはピンと来ないが、一番多いのはコンロの火の消し忘れだそうだ。揚げ物などをしている時、電話がかかってきたり玄関チャイムが鳴ったりして、つい台所を離れてしまい、高温になった油から出火、あるいはコンロの周りに布巾やカーテンなど燃えやすい物に火が移る、また、何かの拍子に調理人の衣服にコンロの火が着火する、などの原因で【コンロ火災】が発生するそうだ。近年、独居老人の自炊が多いと聞く。自動車運転と同様、高齢者が火を扱う時も相当の注意が必要だろう。
第4位は【たき火】(2,867件)――昔、寒い季節、町や村の広場や自宅の庭先で【たき火】をしながら近隣の大人たちが集まって暖を取りながら世間話をしたり、子どもたちは【たき火】でサツマイモを焼いて食べる。この風物詩は翁にとっても懐かしい思い出の1つだ。【たき火】の周辺には数個の水桶やバケツが置かれており、【たき火】を終えたら大人たちがみんなで火消し(火の始末)をしていた記憶がある。だから当時【たき火】が原因の火事が多かったかどうかは、翁は知らない。近年は、やたらに【たき火】が出来ないようだ。自治体によって多少は異なるが、原則としては広場や(自宅の)庭での【たき火】は禁止されているとのこと。自然公園法・都市公園法・廃棄物処理法・消防法・市町村条例などで【たき火】を規制している。それなのに【たき火】が火災発生原因の第4位と言うのは、いささか腑に落ちない。消防庁に問い合わせたら「キャンプファイヤー時の火の不始末や“隠れたき火”が原因の火災が多い」とのこと。“隠れたき火”とは、文字通り“隠れてたき火する”、つまり、許可なく落ち葉や紙屑や板切れなどを自宅の庭先で燃してしまう。煙や臭いが近所迷惑になるのに、無神経で安易に“隠れたき火”をする。その結果、後始末が不十分で目に見えにくい残り火種で火災が発生するケースが多いそうだ。
『火災原因』の第5位は【放火の疑い】(2,305件)――【放火】と【放火の疑い】の法廷論争は、それこそ“火花”が散る。そのはずだ、量刑が大きく異なるからだ。翁は【放火の疑い】は【放火に準ずる】と位置づけし(被害の規模にもよるが)それなりに厳罰を課したほうがよい、と考える。そう言えば”タバコのポイ捨て“による火災発生も場合によっては【放火に準ずる】としたほうがよかろう。そのほかの火災発生原因として電気機器(1,405件)、配線器具(1,297件)、ストーブ(1,197)などがある。
さて、3月7日は『消防記念日』。そして3月1日〜7日は『春の全国火災予防週間』だ。この機会に、火災を起こさない「3つの習慣」――寝タバコはやめる・ガスコンロを離れる時は必ず火を消す・ストーブの近くに燃えやすい物は置かない、と「3つの対策」――住宅用火災警報器の設置・住宅用消火器の設置・お年寄りや身体の不自由な人を守るために隣近所の協力体制をつくる、を、ちゃんと実行しようではないか。「1つずつ“いいね”で確認、火の用心」(全国統一防火標語)・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |