ここには何もない
今日、ふと思い立って千葉の内陸を走る、いすみ鉄道に乗ってみようと出かけた。いつだったかTVで両脇に菜の花と桜が咲く所を走る一両の電車を見て、のどかな里山を走る電車に揺られて時間を過ごすのもいいかなと思った。来年は日本に旅行したいというアメリカの友人を案内する事になっているので東京から日帰りでも行けるところを視察するつもりで母と出かけた。
東京駅でいすみ鉄道の事を聞くと外房線周りで行って大原駅から出ている事がわかった。ただ案内の人もその情報が無いので直接そこに行って聞いてくださいと言われたのでとりあえず大原駅に向かった。途中、母が隣の座席の人に大原駅の事を聞くと、その人も大原駅で降りると言った。その人は9年前に退職後東京から、その大原駅のいすみ市に引っ越してきたそうだ。“大原に何の御用で?‘と聞かれた母は”娘と観光に“と言った途端、大笑いして”ここは何にも見るような所は無いですよ“と言った。母が”新鮮な魚が食べられる所とか“というと、また大笑いして”ここは魚も高いし美味しくないわよ“と。つられて一緒に笑った母が”娘が、いすみ鉄道に乗りたいとか言うもので“と言うとその人は、また、大笑いして“いすみ鉄道は宣伝が上手なのよ。今は桜も菜の花も春の時期だけでそれも、ほんの一部の場所しか咲いていないのよ。今は花も咲いていないし、ここは暖かいので紅葉もしていないし何も無いですよ。”と言った。私がLAから視察に来ている事を知ると気の毒に思ったのか旦那様が駅に迎えに来ているので是非、この近くを車で案内してあげますよとお誘いしてくれた。せっかくアメリカから来るのだったら桜は京都、秋は日光がいいですよ。といろいろ親切にアドバイスしてくれた。
何しろ車が無ければこのあたりは買い物にも行けない不便な所なのだそうだ。
大原の駅で降りるといすみ鉄道の案内所があった。大原駅から出発して13個目の駅が上総中野駅で約50分ほどのコースのようだ。電車の時刻も調べずに行ったので中途半端な時間で電車を待つより親切にお誘いしてくれた方のお言葉に甘える事にした。LAでは、あり得ない。やはり日本だから日本人だからこそなのだろうと思う。という事で2020年のオリンピック、サーフィン会場に選ばれたという海岸と大多喜城という小さなお城に案内していただいた。約2時間ほど車でいすみ市内を走っていただき連絡先を聞いて別れた。後日LAからお手紙に写真を添えて送ろうと思う。その帰り東京に帰る電車の中で同じ大原駅から乗った鉄道お宅に出会った。もう、かれこれ40年あらゆるローカル線の電車の写真を撮りに出かけているそうだ。その写真を見せてもらった。
いすみ鉄道の事を聞くと今日はあちこちで鉄道マニアのイベントがあったそうで、迷いながら、このいすみ鉄道房総準急運転開始60周年記念を選んで写真を撮りに来た事を話してくれた。人によって其々の価値観が違う。ここは、何もないからつまらないと思う人がいる反面、何もないただの田園風景の中を走る電車が好きだという人もいて面白い。大原駅を離れる前にいすみ鉄道のポスターを見たら“ここには、何もないがあります”と書かれてあった。そのフレーズが気に入った。やっぱり来年の春には、この電車に乗ってみよう、そして、またこのご夫婦にも再開出来たら…そう思った。
茶子 スパイス研究家 |