龍翁余話(546)「激増する大麻事件」
『大麻(たいま=マリファナ)事件』が激増している。特に若年層の検挙者が目立つ。つい先日(10月4日)、京都府警山科署は市立中学3年の男子生徒(15歳)を大麻取締法違反(所持)で逮捕した。山科署の発表によると「学校から某男子生徒の様子がおかしい」との通報があり山科署員が任意同行を求め調べた結果、その男子生徒は、自ら数グラムの大麻が入っているポリ袋をポケットから取り出し署員に渡した(その時点で逮捕)。同市内では昨年秋、小学6年の男子児童が大麻吸引で補導され、世間に衝撃を与えたばかりだ。最近は全国的に大麻事件の検挙者が増え、特に若年層の増加が目立っているとのこと。警察庁の発表によると今年上半期(1月〜6月)の大麻事件の摘発人数は過去最多だった昨年同期を上回るペース(半年で1700人、年間平均3,000人〜4,000人)検挙者の9割が30代以下、特に中学生・高校生を含む10代は、何と4割を占めているそうだ。「今年半年だけで大麻取締法違反の検挙者は1700人だが、実際はその数十倍の検挙該当者がいる」と警察ではみている。(なお、覚せい剤検挙者数は年間平均13,000人〜14,000人。)
翁が、かつてテレビ番組で(約1年間かけて)“麻薬Gメン”とか“マトリ”の異名を持つ麻薬取締官に同行して東京・横浜・神戸の麻薬密売人(暴力団)及び常習者の追跡、現行犯逮捕の瞬間、元常習者の体験談、悪夢から逃れるために苦悩する患者とその家族の実態などを取材、また海外からの密輸ルートを解明するためフィリピン(マニラ)・台湾(台北)を(現地Gメンの協力を得て)取材したことがあるが、当時(約35年前)の密売人(ほとんどが暴力団)は主として芸能人、ミュージシャン、アーチスト、スポーツ関係者のほか水商売の店主や従業員、善良なサラリーマンや主婦、裕福な家庭の学生などをターゲット(狙い)にして覚せい剤(シャブ)を密売していた。何故なら、覚せい剤はかなりの高額(翁の調べでは1g当たりの末端価格は9万円〜7万円)を要するので“金持ち層”しか狙わなかった。現在でも覚せい剤の流通ルートは以前と変わっていない。一方、売人たちは、もっと安く(お小遣いていどで)買える大麻を(前述の“金持ち層”のほかに)大学生、高校生、中学生など若年層をターゲットにしだした。(これも翁の調べでは、大麻1g当たり3,000円〜4,000円。小さなパイプを使えば1回の使用量は0.1gから0.2gだから5回から10回は吸引出来るということになる)。
ところで、『麻薬取締法』という法律があることはすでにご承知のことと思うが、その法律は『覚せい剤取締法』(アンフェタミン、メタンフェタミン、エフェドリン、フェニルアセトンなど)、『麻薬及び向精神薬取締法』(コカイン、ヘロイン、LSD,MDMA、メタカロン、アセトンなど)、『アヘン取締法』(アヘン、ケシなど)そして『大麻取締法』(大麻草及びその製品)の4つに分類される。そこで『大麻』だが――大麻はアサ科の1年草。クキから丈夫な繊維が取れるので昔から縄、神事のお払いの大幣(オオヌサ)などに用いられて来た。1912年(明治45年=大正元年)の万国アヘン条約以来、乾燥大麻が神経等に有害であることを理由に国際法で(各国とも)生産・流通・使用・所持が規制されるようになり、日本でも「大麻取締法」で無免許栽培・加工・売買・使用・所持を厳しく規制するようになった。WHO(国連世界保健機構)の2016年の報告書では「大麻は酩酊感、陶酔感、幻覚作用を覚え、常用することによって精神病・知能低下・ガン・後天性免疫不全症候群を引き起こす」と警告を発している。
「大麻取締法」違反の刑罰も決して軽くはない。売却目的での大麻の栽培・輸出入は10年以下の懲役、または300万円以下の罰金、個人使用目的での大麻の譲り渡し(売買)・所持・使用は懲役5年以下の懲役、または200万円以下の罰金(いずれも扱い量、所持量、単独犯、組織犯などによって刑量は若干異なる)。その他、初犯、再犯など状況によっては拘留期間中、接見禁止処分を受けることもある。そして基本的には必ず起訴されることになる。にもかかわらず、大麻事件(検挙者)が後を絶たないのは何故だろう――
大麻使用のきっかけは「親切そうな紳士風の人物や友人知人に誘われたから」、「多くの芸能人など有名人が捕まってテレビカメラに向かって頭を下げている様子を見て、彼らが、それでも手を出してしまう大麻とはどんなものか、興味を持ったから」、「インターネットや大麻吸引経験者の話では、大麻は他の薬物より安全で無害だし、依存症にならないから、いつでも止められる」、「海外で、大麻は合法化されている国や州があるから」――確かに海外では(条件付き)合法や緩和策をとっている国や州もある。が、それはそれらの国や州の事情だろう。しかし日本に居住する者、日本の領土内に立ち寄る者(旅行者など)は日本の法律に従わなければならないのは当然のこと。それに第1“無害”、“依存性がない”は真っ赤なウソ、大麻に含まれる有害成分(THC=テトラヒドロカンナビノール)
は、
幻覚作用を起こし常軌を逸する(犯罪に繋がる)行為に走ったり、記憶障害、学習能力の低下などをもたらす、など、正しい知識を持たなければならない(厚労省資料より)。
以前、翁の“麻薬取材”に協力してくれた元麻薬取締官K氏の話は傾聴に値する。「近年、インターネットやLINEなどを通じて(大麻が)簡単に入手出来るようになったのと、本来のプロの売人が“小遣い稼ぎをさせてやろう”と言葉巧みに少年に近寄り、売り方・扱い方などを教え、最後に“捕まったらお前も親も刑務所行きだぞ”と脅しをかけることも忘れない。“小遣い欲しさ”の少年は、最初は遊び仲間に無料で(タバコ感覚で)吸わせ、次から“売り手”に変身、買わされた遊び仲間も、やがて“大麻欲しさと資金稼ぎ”に常用化、売人化して行く、まるでネズミ算式構図になる。恐ろしいのは覚せい剤も大麻も(いすれは)心身をボロボロにし“人間破壊”に陥り、家族をも巻き添えにしてしまう。要は“麻薬”は“魔薬”であることを親も学校も、そのことの認識を深め、社会全体で“麻薬源の撲滅”を図るべきだ」・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |