龍翁余話(526)「禁煙」
我が国は、昭和30年代の高度経済成長期に入って工場の煙突から排出される煙、不法産業廃棄物処理業者の焼却処理の煤煙、自動車の排出ガスなどによる大気汚染が人間や動植物に対して多大なる被害をもたらすとの(いわゆる)公害問題が社会問題化し、1968年(昭和43年)6月に『大気汚染防止法』が制定された。以後、年代の推移とともに“煙害”が減り、日本(特に大都市)の空気が次第にきれいになってきた。現在、“煙害”と言われるのは、おそらく“タバコの煙による被害”のことぐらいだろう。“タバコの煙”は、吸う本人の健康被害ばかりでなく、周りの人に悪臭による不快感や健康被害を及ぼす。また部屋や車の中を汚したり臭くしたり、パソコンなどの電子機器などにも悪影響をもたらす。
1988年(昭和63年)にWHO(世界保健機関)が5月31日を「世界禁煙デー」と定め、
翌年から毎年世界各国で“禁煙イベント”が行なわれているが、タバコ中毒者の数は一向に減らなかった。1995年時点で世界の喫煙者人口は10億1,000万人、約5人に1人がタバコを吸い、毎年世界で300万人が(喫煙が死因とみられる)癌や心臓病で亡くなっており、このままでは2030年頃には喫煙による死亡者が年間1,000万人に達する、と(WHO)は世界各国に警告を発した。日本では1992年(平成4年)5月31日から6月6日までの1週間を『禁煙週間』としてキャンペーンを行なっている。
JT(日本たばこ産業株式会社)が1965年以降、毎年実施している『全国たばこ喫煙者率調査』の2017年版(喫煙人口推移値)を見ると、男性1,420万人(前年比72万人減)、女性491万人(前年比37万人減)、男女計1,917万人(前年比110万人減)となっており、少しずつではあるが年々減少傾向にある。要因としては(JTでは)「個人的には病気によるタバコ離れ、健康に関する意識の高まり、社会的には喫煙をめぐる数々の規制の強化、増税(値上げ)などによる」と分析している。
「喫煙者は減少傾向にある」とは言え喫煙者率は男性28.2%、女性9.0%(いずれも2017年)もいるのだから、タバコが原因または遠因で早死にする人も少なくはない。タバコが直接の原因または遠因で亡くなったと言われている有名人を調べてみた。(アイウエオ順)渥美清(63歳=肺癌)、逸見政孝(48歳=スキルス性胃癌)、いかりや長介(67歳=頸部リンパ癌)、石原裕次郎(52歳=解離性大動脈癌)、今いくよ(67歳=胃癌)、忌野清四郎(58歳=咽頭癌)、緒方拳(71歳=肝硬変)、勝新太郎(65歳=咽頭癌)、蟹江敬三(69歳=胃癌)、越路吹雪(56歳=胃癌)、西城秀樹(63歳=脳梗塞)、田中角栄(58歳=肺癌)、壇一雄(64歳=肺癌)、貴ノ花利彰(55歳=口腔低癌、貴乃花親方の父)、立川談志(75歳=咽頭癌)、鶴田浩二(62歳=肺癌)、テレサ・テン(42歳=気管支喘息)、中村勘三郎(57歳=食道癌)、野際陽子(81歳=肺癌)、ハナ肇(63歳=食道静脈瘤破裂)、はらたいら(63歳=肝臓癌)、原田芳雄(71歳=大腸癌)、藤田まこと(76歳=慢性閉塞性肺疾患)、藤山寛美(60歳=肝硬変)、松方弘樹(74歳=脳リンパ腫)、松田優作(39歳=膀胱癌)、美空ひばり(52歳=肺炎)、三波伸介(52歳=大動脈瘤)、レッツゴーじゅん(68歳=脳出血)、まだまだ沢山いるが・・・ここで、厚生労働省が発表している「喫煙と癌の比率」をみると、1日15本以上の喫煙者が罹る癌の発病率は非喫煙者と比較して喉頭癌32.5倍、肺癌4.5倍、口腔3,1倍、肝癌3.1倍、咽頭癌3,0倍、食道癌2,2倍、膵臓癌,膀胱癌1.6倍、胃癌1.4倍となっている。
翁は高齢のわりには比較的元気だ。その理由はいくつかあるが、一番は『禁煙』だろう。2009年8月と2010年1月の(2度の)癌手術の後(医師の忠告で)直ぐにタバコをやめた。医師の“脅し”が効いたのか(よほど命が惜しくなったのか)、苦も無く、案外すっきりとやめることが出来た。2度目の癌手術(2010年1月)以降、3か月ごとの定期検診の際、必ず血液検査を受けているが丸2年を過ぎた頃から検査結果は(約60の検査項目のほとんどが)上限値以内、つまり“異常無し”。塩分やカリウムの強い野菜・果物を控える、水分を多く摂る、禁煙・禁酒、適度の運動、睡眠など医師の指示を忠実に守っているからだが、特に“禁煙こそが健康の持続である”と翁自身は思い込んでいる。勿論、高血圧や高コレステロールを抑える薬も服用している(2015年の6月、突然の総胆管結石症で緊急手術を受け、その後、胆管を浄化する薬を加えて現在、3種類の薬を服用)・・・
「翁が高齢のわりには比較的元気、その理由の一番は『禁煙』だろう」と述べた。しかし『禁煙』してからまだ8年目、そんなに早々に発癌リスクが減るとは思えない。国立がん研究センターと東京大学が行なった共同研究によると、1日に20本以上のタバコを20年間吸い続けた人の場合、『禁煙』してから発癌リスクがリセットされるまでの期間は、男性が
21年かかるそうだ(女性は11年)。20歳からタバコを吸い始めた男性が40歳で『禁煙』に踏み切っても(喫煙歴ゼロの人なみに)発癌リスクが下がる(低くなる)のは61歳以降と思うと、うんざりするような話。ましてや翁のように高齢者になってからの『禁煙』は“もう手遅れ”と思いがち。ところが(医師から)『禁煙』効果は癌以外にも発症リスクが下がる病気があることを教えて貰った。それは“慢性閉塞性肺疾患”と(血管がボロボロになる)“血管内皮障害”だ。その2つの医学的説明は(翁には難しいので)割愛するが、“慢性閉塞性肺疾患”は日本人男性の死亡原因の第8位。“慢性閉塞性肺疾患”は第3位の肺炎や第2位の心不全、“血管内皮障害”は第4位の脳卒中にも影響するケースが多いとか――要するに人間の主な死因は癌・血流の滞り・呼吸障害の3つだから、その3つの発症リスクが下がると思えば、何歳であっても『禁煙』したほうがいいに決まっている。超高齢の翁だが、生きている間は何とか“健康”でいたい。ただ願望だけでなく努力が必要だ。(すでに現役を退いている)翁は“我が身は己れで守る”(健康持続対策)それが今やれる“翁の仕事”だと思うから・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。
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