龍翁余話(492)「断腸の思い“愛車との別れ”」
秋の全国交通安全運動が進められている(〜30日)。重点目標は(毎回同じ)「子供と高齢者の交通事故防止」だ。翁、歳をとるごとに、運転に関しては怖さが倍増しているくせに歳を忘れるくらいドライブが楽しくってしかたない。誰かに「ご趣味は?」と訊かれれば「ゴルフとドライブ」と即答するほどだ。“出来るだけ長くゴルフもドライブも楽しみたい”一心で、その分、健康管理に気を配り、ゴルフでもドライブでも“安全確認”を怠らなかった。たとえばゴルフの場合、ルール遵守は当たり前のことだが、自分がボールを打つ際、前方にいるプレーヤーが翁のボールの行方を注視しているか、とか、逆に翁が前方を歩く時、後方のプレーヤーの打球を注視するとか、その他、歩く時の滑り(転倒)や常用カートの乗降時の注意など。勿論、炎天下や風雨雷時のプレー中止も大事なことだ。車の場合は自他の死傷に関わるので、なおさら“安全”には細心の注意を払っている。第一は自分の体調確認(体調不良の時は、なるべく運転しない)、そしてエンジンの掛かり具合とエンジン音、タイヤの空気圧、ブレーキペダルの調子などをチェックする。歩道のない狭い道を通る時、特に子供や老人、自転車の飛び出しなどに気を付ける。道交法遵守は当然だ(と言いながら、多少のスピードオーバーは自己責任範囲で良しとしているが・・・)。
“交通事故”は全国的に減少傾向にある。このほど警察庁から発表された「平成28年中の全国の交通事故発生状況」を見ると、総件数は49万9,201件で前年比‐37,698件(‐7.0%)
うち死亡事故件数は3,790件で前年比‐238件(‐5.9%)、重傷事故件数は35,380件で前年比‐1,632件(‐4.4%)、(事故当日及び事故の原因による数日後の)死者数は3,904人で前年比‐213人(‐5.2%)――
このように、交通事故及び交通事故による死者数は全体的には減少しているものの高齢者(65歳以上)の占める割合は過去最高の54.8%という悲しい現実がある。事故死の類型としては正面衝突、路面逸脱(スピードの出し過ぎ、ハンドル捌きの不手際により道路から崖下へ転落)電柱・塀など工作物への衝突、アクセルとブレーキの踏み間違いによる建物衝突、時には歩行者への突っ込み、交差点や曲がり角での出会い頭衝突などが多い。これらの類型は高齢者だけとは限らないが反射神経(咄嗟の判断力を含む)の衰え、ハンドル操作不適、注意力散漫(漫然運転)、視力の衰えなどは、やはり高齢者特有のものだろう。そして驚くことに信号無視や一時停止違反、飲酒運転など法令違反も多いそうだ。
警視庁発表の「平成28年中の東京都の交通事故発生状況」を見ると、総件数は32,412件、(事故当日及び事故の原因による数日後の)死者数は159人、これらはいずれも10年前の半数以下となっているが、一方で高齢者による事故の割合は年々高くなり(昨年は)交通事故総数の22.3%を占め、10年前に比べ1.7倍にもなっている。原因を見ると前方不注意(わき見運転、考え事をしていたなどの漫然運転)、交差点での安全確認違反、歩行者妨害、ハンドル操作不適、アクセルとブレーキの踏み間違い、信号無視、一時停止違反、一方通行(進入禁止)違反(高速道路での逆走を含む)、その他(飲酒運転、一時的な呆然症など)。
高齢の運転者は、自分で安全運転を心掛けているつもりでも、他人が客観的にみると安全運転とは思えないところがある。その理由として、注意力や集中力が低下していること、瞬間的な判断力が鈍っていること、過去の経験にとらわれる傾向があること、などが考えられる。“運転自慢”の翁でも、加齢に伴う動体視力の衰えや反応(反射)神経の鈍化などを自覚して、前述の通り“安全には細心の注意を払って運転している”のだが、それでも時々“ヒヤリ・ハット”を経験することがある。それと、いくら自分が“安全運転”をしているからといって、それでいい、というものではない。特に高速道路では前方車輛の運転技術や前方の交通状況判断、車間距離、後方車輛の接近状況、横(左右)の車輛の割り込みの有無予測など、自分の運転に関わる全ての車輛や交通状況に注意を払わなければならない。つまりは“予防運転”も必要である、ということだ。
70歳以上の自動車免許更新(高齢者講習)の時、指導員から必ず言われるのが「運転免許証の自主返納」だ。彼らは「返納して下さい」とは言えないので「ご家族とよくご相談して・・・」と遠回しに返納を勧める。75歳以上の後期高齢者は“座学”の前に“臨時認知機能検査”を受けなければならない。その中で特に厄介なのが、16枚の絵を見せられて、その10分後に(16枚の絵を)幾つ思い出すか、である。平均は7〜8枚だそうだが、3〜4枚しか思い出せない人もいる。中には見せられた絵とは全く異なる回答もあると聞く。5枚以下は“要注意“で、出来れば認知症専門医の診断を受けることを勧められる。まだ、その程度ならいい。問題は”実車走行“だ。3人が同乗する。翁が足を突っ張らねばならないほど危ない運転もある。指導員が言う「あなたは最近、運転していませんね」さすがに柔らかい言い方だが、翁だったら即座に言う「もう、(運転は)おやめなさい」――
さて、翁「もう(運転は)おやめなさい」は他人事ではなくなった。冒頭に「歳をとるごとに運転の怖さが倍増しているくせに歳を忘れるくらいドライブが楽しい」と述べた。なのに、翁、そろそろ車を手放す時期が来たことを悟った。今は車自体も翁の運転テクニックも、これという問題がある訳ではないが、なにせ八十路の高齢、いつ、どこで、どんなアクシデントが発生して死傷事故を起こすか分からない。自分が死ぬのは勝手だが加害者にはなりたくないという思い(危惧)がだんだん強まって来た。そこで遂に“断腸の思いで愛車との別れ”を決意した。“ゴルフとドライブが趣味”の翁が車を手放すことは、ゴルフ行きにも影響する。我が余生の楽しみを自ら奪うことになるので、実に寂しい。だが、いずれは“寂しさ転じて”になるであろうことを願って決断した。年内中に『寂しきかな!愛車との別れ』をお届けする予定・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |