香りを食べる
新緑のシーズンになると、木の芽(山椒の新芽)も旬の食材として出回る頃だ。山椒はミカン科だからなのだろうか、香りが何とも爽やかで清々しい。この山椒の新芽は4月から5月頃に日本のデパートの青果売り場で見かけるようになる。高級食材として値段も結構高いので料亭で見かける事はあっても個人では、なかなか使う機会が無い。スパイスやハーブに興味を持ち始めてから何度か山椒の新芽をデパートで買った事があったけれど、香りが弱くて彩を添えるお飾り程度のものでがっかりした事もあった。
最良のものは、料亭などに行ってしまうのだろうか…山椒の実から作られる粉山椒の方は1年中いつでも手に入るけれど山椒の新芽は、この時期だけの贅沢な食材なのだ。
こちらの米国日系のマーケットでも見た事がない。この貴重な山椒の新芽を先日Oxnardで農業を営んでいるN社長から頂いた。こういう時は身近に生産者の人がいる事を有難く思う。
珍しい山椒の新芽が手に入った事をClientさんに伝えると、とてもエキサイトしてくれた。どんな料理に使おうか考えてみたけれど、やっぱり最初は春の食材の筍を使う事にした。なるべく山椒の新芽の香りが引き立つように、だし汁で薄く煮てみた。そして手の平の上に山椒の葉を置いてパンと叩いた瞬間、キッチンの傍にいたClientさんが“うわ〜すごい、ここまで山椒の香りが匂ったわ”と感動した。私もその匂いの強さに改めて、びっくりした。次にすり鉢に白味噌とみりんと山椒の葉を入れて山椒味噌を作ってみた。網で良く焼いたおにぎりに塗って食べてみたら山椒の新芽の香りがして美味しかった。“香りを食べる”なんだか、とても贅沢で粋な感じがする。
そう言えば、秋のマツタケも香りを楽しむ高級食材だ。極上ステーキよりも高いマツタケを買う日本人をアメリカ人は理解する事が出来るだろうか…
春夏秋冬、其々の季節の中で育まれた旬の食材を研究し伝統として日本の食卓に引き継いできた和の職人たち。日本食は繊細で奥深い。
茶子 スパイス研究家 |