龍翁余話(463)「自然への憧れ」
「家庭菜園ていどの畑があって、近くに、乗馬クラブがあって、魚釣りが出来る川か湖があって、ゴルフ場があって・・・そんな場所を翁の終焉の地としたい」という“夢”を持つようになってから、もう10年も経つ。いっこうに実現する気配はないし可能性もほとんどないのだが、そうなると、ますます憧れは深まり、テレビや雑誌で(日本ばかりでなく外国の)“田園風景”を見ると「いつの日か」と夢見ることが多くなる。田舎生まれの翁、年老いて望郷の念に駆られているのかも知れないが、そればかりではない。気取って言えば“自然への憧れ”――あと何年生きるか分からないけれども、命(いのち)ある限り、土いじり、乗馬、釣り、ゴルフと、どっぷり自然に浸りながら、とことんアクティブ(積極的・活動的)に生きたいと思うのだ。
「まず、国内で龍翁さんの理想にかなうような場所を探すのは大変だし、第一、都会生活の長い龍翁さんが、今更そんな寂しい所で独り暮らしをすること自体無理ですよ。乗馬や釣りやゴルフはともかく、龍翁さんが野菜作りなんか出来るはずはない。まあ、せいぜい、“貸し農園”で気まぐれ野菜作りの真似事をするか、年に数回、ゴルフ旅行、釣り旅行、乗馬体験旅行をする程度が現実的でしょうね」とは友人たちの言。その通りだろう、いや、それが実現出来るなら、それだけでも幸せかも知れない。
『龍翁余話』の読者の幾人から毎回”読後感“を頂戴しているが、その中に千葉県在住のSさんという(アマチュア無線の)友人がいる。(想像だが)彼は、かなり広い菜園を自宅に持っているようで、“読後感”に添えて時々、家庭菜園の話題を提供してくれることがある。微笑ましくもあり(冒頭に述べた通り“自然への憧れ”の1つ、家庭菜園を夢見ているマンション暮らしの翁にとっては)羨ましい話でもある。
「龍翁さんが野菜作り出来るはずはない」――確かに、知識も経験も、それどころか恥ずかしいほど野菜の種類(名称)も知らないのだから、友人たちが言う通り「作れるはずはない」のだが、前述のSさんの家庭菜園に刺激されて、一度は挑戦したい気もする。そんな翁の気持ちを察してか、友人たちが(同情して)「家庭菜園ていどなら都下や近郊に“貸し農園”が幾らでもありますよ」とアドバイスしてくれる。早速、インターネットで調べて見た。“貸し農園”とは、都市生活者などが自然に親しむためにレクリエーションとしての(名目)自家用野菜・花の栽培を行なったり、高齢者が健康や趣味(生き甲斐)のために利用したり、また、食育や情操教育の観点から、幼児・児童・生徒の体験学習などの多様な目的で、小面積の農業者の畑を有料で利用する“市民農園”のこと。呼称は“市民農園”のほかに“レジャー農園”、“体験農園”、“レンタル農園”、“シェアー畑”などあるが、ここでは“貸し農園”と呼ぶことにする。年々、利用者の増加に伴い貸し農園の数も増えているそうだ。農林水産省の資料によると、平成28年3月末現在の(全国の)貸し農園数は、地方公共団体が提供している農園が最も多く2,321(全体の55%)、次いで農業者が1,078(同26%)、あと農協が511(同12%)、企業・NPOが313(同7%)と続く(合計4,223農園)。東京都及び近郊(千葉・埼玉・神奈川)を調べたら、ざ〜と40近い貸し農園がある。どうでもいい話だが、ついでに料金などを調べて見た。千葉県の某貸し農園の例だが、プランが3段階あって@あるていど知識と技術があり、畑(11坪=以下、同じ)だけを借りて自分で栽培する場合の月額は約5,000円(1か年約6万円=区画賃貸料・指導料・水道料)。A種まきや苗の植え付けはしたものの、畑に来られない日もあって日々のメンテナンスが不安な人の場合、月額は約8,000円(1か年約10万円=区画賃貸料・指導料・水道料・日々のメンテナンス料)。B土作りから種まき、苗の植え付け、収穫までの一切を農家任せの場合、月額は約1万円(1か年約12万円)(数字は、いずれも税別)。
翁のような気まぐれ屋が、精魂込めて野菜作り出来るはずはないし、一切を農業者に依頼するようでは“自然に親しむ”という大義は成り立たない。ましてや、収穫した野菜を(独り者の翁)どうやって処分するのか・・・などなどを考えたら“貸し農園”は無理。そこで(自然に親しむ)構想は一挙に縮まって“ベランダ菜園”に落ち着くことになる。その話を友人たちにしたら(皆、笑って)「そんなことだろうと思っていました」――
今年の“雨水”は2月18日だそうだ。“雨水”とは、「雪から雨に変わり積雪が解け始める頃」だそうだ。多分、江戸(東京)の気象を基準にしているのだろうが、近年の2月の日本列島は、まだまだ“重ね雪”が続く。しかし、この“雨水”は昔から農耕の準備を始める目安とされて来たそうだ。そこで翁、“ベランダ菜園”の準備を始めようと思い立ち、再びインターネットで調べて見た。猫の額ほどのベランダだから根菜類は無理、葉菜類か小さめの果菜類に絞られる。“ベランダ菜園”ならコマツナ・ルッコラ・ピーマン・リーフレタス・キュウリ・トマトなどがいいだろう、と出ている。いずれにしても2月から3月にかけての野菜の植え付けは(寒さ故に)かなり難しそうなので、行動開始は4月から、と決めた。いずれ『余話』で成果をご報告出来ればいいのだが・・・
冒頭に「命ある限り、どっぷり自然に浸りながら、とことんアクティブ(積極的・活動的)に生きたい」と書いた。藤沢周平著『三屋清左衛門・残日録』の中にある「日残りて昏るるに未だ遠し」「死が訪れし時は、それまで己れを生かしてくれた全てのものに感謝し、死に至るまでは命をいとおしみ、力を尽くすべし」が今の翁の心情である。老齢故に健康には常に不安が付きまとうが、案じるばかりでは余生の生き甲斐が損なわれる。翁は、すでに男性の平均寿命に達した。あとは“おまけ”、と開き直って「命をいとおしみ、力を尽くす」ことにした。今年もあちこち“自然に親しむ”行動をしようと“意気”を盛んにしている昨今である・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |