龍翁余話(28)「梅雨」
翁のゴルフ回数は、以前は春夏秋冬週1回のペースだったが、加齢とともに最近はかなり減った。猛暑日や厳寒日は避けるようになった。その分、プレー日の天気が今まで以上に気になって仕方ない。テレビで“週間天気予報”を視て気を揉むが、テレビは、おおざっぱ過ぎて、ゴルフ場近辺の予報は、たまには外れることもある。しかも、この梅雨の時期は、なおさら当たり外れが多い。しかし今はパソコンやスマホなどでピンポイント(その地域だけ)の天気予報を調べることが出来る。プレー日の前日の夕方、パソコンで最終チェックをして“朝から終日雨”ならしぶしぶ出かけるのを諦める。せっかく“遠足前夜の少年”の気分に浸っているのに、諦めるにはかなりの勇気が要る。“朝方雨、のち曇り”や“午前中曇り、午後雨”なら出かける。プレーが始まってからの小雨ていどならプレーを続行する(但し冬は小雨でも中止する)。
春と夏に挟まれた雨の季節“梅雨”。じめじめしてカビが生えそうで気分も沈みがち。そう言えば“梅雨(ばいう)”とは、湿度が高くカビが生えやすいところから“黴雨(ばいう)”と呼ばれた、という説もある。しかし翁は、この時期は梅の実が熟す頃だから、やはり“梅雨”がいいと思う。ほかに“梅雨”は旧暦の5月頃であるから“五月雨(さみだれ)”とか麦が実る頃だから“麦雨(ばくう)”などの別名があり、よく詩歌の季語に使われる。
確かにゴルフをする者にとっては厄介な時期だし(気温の変化で)体調管理も難しいが、梅雨があるから我々日本人の暮らしが潤う。農作物にとっては恵みの雨(喜雨・慈雨とも言う)。我々の生活水も確保出来る。東京都の水源は約8割が利根川水系と荒川水系、約2割が多摩川水系だ。6月10日現在の貯水状況を見ると利根川水系(八木沢ダムなど8池)が約45%、荒川水系(荒川貯水池など4池)が約63%、多摩川水系(小河内貯水池と村山・山口貯水池)約85%、いずれも減水しているが、この梅雨でそれぞれの貯水池が満杯になる。梅雨は物理的恩恵ばかりではない、人間の心を癒してくれる文化的風情にも出会う。
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小さな花が寄り添って円形を作る紫陽花は、顔かたちや皮膚の色合いが異なる人間同士の輪(和)を表しているようで翁は大好きだ(写真左)。
【紫陽花や 帷子時(かたびらとき)の 薄浅黄(うすあさぎ)】(松尾芭蕉)
紫陽花が咲き、今年も帷子(かたびら=夏の麻の着物)を着る季節がやって来た。紫陽花も帷子も同じ薄浅黄色をしている――翁は、薄浅黄の紫陽花を見た記憶はないが、紫陽花はもともと原生のものなので品種によって色に違いがある植物。また、同じ花でも咲き始めと終わりでは色がだんだん変化して行く。それを詠ったのが次の句。
【紫陽花や 昨日の誠 今日の嘘】(正岡子規)
紫陽花の花の色が日々、少しずつ変化する様子を擬人化したのだろう。この句をもじって翁【舛添や 昨日の誠 今日の嘘】と詠む。舛添が厚生労働大臣だった(たしか)2007年の夏、年金保険料の着服問題が発覚した時、彼は「盗人には牢屋に入って貰う」と述べ、更に「銀行は信用出来るが社保庁は信用出来ない。市町村は社保庁よりもっと信用できない」と言った(その後、この発言を撤回したが)。そのほか彼は、当時、政治資金の使い方の正論を吐いていた。ところが今日(こんにち)の彼はどうだ?政治資金(税金)の公私混同の無駄遣い、あまりにも“みみっちい”税金のかすめ取りで私腹を肥やし、とても世界に名だたる東京のトップリーダーとは言えない吝嗇(りんしょく)人間になり下がった。今は、針のムシロに座らされている(6月10日現在)。果たして舛添知事の行方は?
梅雨時の花で、翁がもう1つ好きなのが梔子(くちなし)の花だ(写真右)。微かに漂う甘い香りと純白の花は、まさに優雅・洗練・清潔・喜び、(花言葉)そのものだ。
【今朝咲きし 梔子(くちなし)のまた 白きこと】(星野立子)
「今朝咲いた梔子の花の、何と白いことだろう」と、純白の美しさに感動し率直に表現した女性らしい感性の1句だ。星野立子(ほしのたつこ)は正岡子規の弟子・高浜虚子(明治7年〜昭和34年=明治・大正・昭和に活躍した俳人)の次女(明治36年〜昭和59年)。昭和に活躍した俳人で、彼女が主宰した俳誌『玉藻(たまも)』は多くの女性俳人を輩出。
先ほど「梅雨は物理的恩恵ばかりではない、人間の心を癒してくれる文化的風情にも出会う」と述べた。その通りだが、梅雨に自然の驚異が発生することも忘れてはならない。梅雨前線の近くに台風や熱帯低気圧が接近または上陸すると水蒸気をどんどん供給された梅雨前線が活発化して豪雨となる。この時期、恩恵に甘んじるだけでなく、台風や集中豪雨への備えもしておかなければならない。
さて、老いてなおゴルフ熱が下がらない翁、雨によるプレーのキャンセルは、遠足に行けなくなった少年と同じくらい悔しい。(前号で述べた)“余暇時間の有効活用”に気持ちを切り替え『余話』の執筆に取り掛かろうとパソコンに向かうが、頭が、なかなかエッセイ・モードになれないので思うようにキーボードの指が動かない。そのうちゴルフ番組を視ながら居眠りしてしまうのがオチ。【さみだれの しばしの晴れ間 待ちにけり】・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |