俳句の表現について、こんな話を聞いた事があります。
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俳句の宗匠(師匠)と弟子たちが初夏のある日、旅先で一軒の農家に世話になった時のこと、夕方、その農家の主婦が米をといでいると、目の前の田んぼを蛍が飛んでいる風景に出会いました。
早速、弟子の一人がその情景を俳句にしました。
――― 米あらう 前に蛍が 二つ三つ ―――
その句をみた兄弟子が言いました。
「お前の句には蛍の動きが感じられない。『前に蛍が...』よりは『前へ蛍が...』の方が良いと思うが・・」
そしてその句を次のように直しました。
――― 米あらう 前へ蛍が 二つ三つ ―――
それを聞いた宗匠が言いました。「さすがは兄弟子だ。良い句になった。しかし、まだそれでは不充分だ。そこは『前を蛍が...』にした方が良いだろう」そして次のように直しました。
――― 米あらう 前を蛍が 二つ三つ ―――
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『前に蛍が...』の場合は、ただ蛍がそこにいるというだけの情景で動きが感じられないのに対し、『前へ蛍が...』とすることにより蛍の動きを表現できます。ところが『前へ蛍が』だけではまだ蛍が飛び交う情景は浮かんできません。『前を蛍が』として始めて蛍が、目の前を縦横に飛び交うさまが表現されます。宗匠は、基本的な『てにをは』の使い方を弟子たちに教えたのでした。
日本語の場合(外国語もそうかもしれませんが)、『てにをは』の使い方ひとつで言葉の意味・内容、が微妙に変ってしまいます。まさに『てにをは』おそるべしと言えましょう。
(【注】:てにをは=@助詞の通称。また、助詞・助動詞・活用語の語尾・接尾語などの総称。Aことばづかい。B話のつじつま。【講談社、国語辞典】)
また『てにをは』だけに限らず、ひと文字の書き違い、ミスタイプでとんでもない事態になる場合もあり、こちらの方は格好のジョークのネタになります。こんな間違いを集めたジョーク、小話も多いようです。
インターネット上に紹介されている他人様のそんなジョーク、小話をいくつかご紹介しましょう。
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(1)夫婦ゲンカのとき、父が母に「バカモノ!」と言うのを、間違って、「バケモノ!」と怒鳴ってしまった。ケンカはさらにひどくなった。
(2)先日、父は、男にフラれて落ち込んでいた姉をなぐさめようとして、「おまえ、人間は顔じゃないぞ」と言うところを、「おまえの顔は人間じゃないぞ」と言ってしまった。
(3)近所のおばさん達のおしゃべりを聞いてしまった。多分『ポリープ』の話題だと思うのだが・・・・
「昨日お医者で調べてもらったら喉に『クリープ』ができているらしいの」
「あら、奥さんそれを言うなら 『クレープ』 でしょ」
(4)私の姉はお見合いの席で 「ご趣味は?」 と聞かれ、「はい、お琴を少々」と上品に答えるつもりが、「はい、男を少々」と言ってしまった。
(5)私の姉は渋い男性が好みで、特に“怒れる男”に興味があるという。ある時、姉は間違えて「私は“いかれた男”が大好き」と言ってしまった。
(6)私の父は何かというと「贅沢は敵だ!」という。ところが先日、うっかり間違って「贅沢は素敵だ!」と言ってしまった。
(7)家族揃って夕食をとっているとき、何かの拍子に怒った父が、「誰のおかげでメシが食えると思ってるんだ」と言おうとして、「誰のためにメシ食ってんだ!」と怒鳴った。そこで私と姉は「自分のためだよ」と答えた。
河合 将介( skawai@earthlink.net ) |