龍翁余話(402)「クリスティ・ヤマグチ、フィギュアスケート・ショー」
翁は、スピードスケート、ショートトラック、フィギュアスケートを問わず、氷上の競技にはあまり興味を持っていなかった。それでも、たまにテレビで視るオリンピックや世界選手権での一流選手のスケーティングには(スケート音痴の翁でも)ハラハラ、ドキドキ、そして感動させられることもあるが、数時間も粘ってテレビにかじりつくとか、深夜でも目をこすりながら視るとか、あるいは録画するとか、そこまでして“観たい競技”ではなかった。
先日、ハワイ・ホノルルへ行った時、たまたま『クリスティ・ヤマグチ、フィギュアスケート・ショー(チャリティ)』を観る機会があった。翁が足を運んだ目的は“スケート”を楽しみに、と言うより、子供の教育や社会奉仕活動を行なう『オールウエイズ・ドリーム・ファンデーション』の主宰者クリスティ・ヤマグチが、どんなメッセージを発するか、それを聴きたかったのだ。『ファンデーション』については後ほど述べることにして、まずはフィギュアスケート・ショーから。

伝説のフィギュアスケーター、クリスティ・ヤマグチ(米国:1992年アルベールビル五輪の金メダリスト、その時の第2位が伊藤みどり)とブライアン・ボイタノ(米国:1988年カルガリー五輪の金メダリスト)を筆頭に、エカテリーナ・ゴルデーワ(旧ソ連:1988年カルガリー五輪、1994年リレハンメル五輪ペア金メダリスト、カート・ブラウニング(カナダ:1989年、90年、91年、93年世界フィギュアスケート選手権優勝、国際スケート連盟公式戦で初めて4回転4回転トウルーブを成功さ (10歳の次女と共演 写真右)
せた選手)、そして日本から荒川静香、安藤美姫、佐藤有香(1993年、94年全日本選手権優勝、1994年世界選手権優勝、浅田真央のコーチ佐藤信夫の娘)、本田武史(1999年四大陸選手権優勝)らの名演技が満場の拍手を浴びたことは言うまでもなく、いかなスケート音痴の翁も華麗なる“氷上の芸術”に陶酔させられた。(解説と写真は当日販売のパンフより)
さて、ショーの開演に先立ちクリスティ・ヤマグチは『オールウエイズ・ドリーム・ファンデーション』について、こう語った。「未来を担う子供たちに、読む・書く・描く機会を与え困っている人たちに手を差しのべる活動に皆様のご理解ご協力をいただきたい」――クリスティ・ヤマグチは(ご承知のように)米国カリフォルニア州生まれの日系3世。それだけに、彼女はことのほか“日本への思い”が強い。その具体的な例(行動)が見られたのが、未曽有の大悲劇『東日本大震災』が起きた2011年3月11日からわずか7か月後、まだ地震・津波の爪跡が生々しく、福島原発事故による危険が懸念されている最中の10月24日、世界のどの国の民間人・民間団体よりもいち早く被災地を慰問した。それは米国本土やハワイの日系人コミュニティからの要請もあったが、一番の動機は(前述の)子供の教育や社会奉仕活動を行なう『オールウエイズ・ドリーム』の精神によるものだった。
その東北慰問団は『プロジェクト・アロハ』と呼ばれ、クリスティ・ヤマグチと、プロジェクトの趣旨に賛同した高見山(ハワイ・マウイ島出身、元関脇、引退後は年寄・東関、2009年日本相撲協会を定年退職後、日本とハワイの文化交流に努めている)が共同慰問団長を務めた。カリフォルニアからはクリスティ団長以下、日本文化コミュニティ・センター事務局長、弁護士、元アイスホッケー選手、ライオンズクラブ役員、それにクリスティの姉ロリ・ヤマグチ(オールウエイズ事務局長)ら7人のほか、ロサンゼルスの大学生20人が参加。ハワイからは高見山団長以下、ホノルル商工会議所会頭、ミュージシャン、ファミリー・バンド(マノアDNA)、プロ・ダンサーなど11人が福島(いわき市)、気仙沼、仙台、石巻を訪問して、それぞれ地元の人と一緒になって残骸の片づけを手伝ったり、音楽や食事を提供したり、被災者の悩みを聴いてあげたりなど、数千人との交流を深めた。翁、この記録ビデオをホノルルの友人宅で見せて貰った。親や子を失った遺族の悲しみ、土地や家屋を失った被災者の苦痛の叫び、そしてクリスティたちの“温か訪問”を受けた被災者たちの喜びの涙が翁の胸を打つ。「目の当たりにする現実の厳しさ悲惨さは、新聞記事やテレビ報道のアナウンスメントをはるかに超え、心が痛む。私たち米国の日系人社会が、いかに被災者の皆さんに心を寄せているかをお伝えしたい」ビデオカメラの前で語るクリスティ・ヤマグチの言葉が実に重かった。ところで今の被災地の復旧・復興状況は?
道路や施設、交通などのインフラ面の復旧は比較的早く進められたが、行方不明者の捜索が困難を極め(いまだ2633人)、住環境の整備が依然遅れている。今年3月現在、死者1万5884人、避難生活者26万7419人、仮設住宅生活者10万2650人(復興庁調べ)・・・「
福島の復興なくして東北の復興も日本の再生もない」の安倍首相の演説が実現するのはいつの日か――それにしても翁のフィギュアスケート観に少しばかり変化が生じたようだ。翁のような古風な老人があの観客席に座っている様は何とも“場違い”に思えるが、機会があればナマでもう一度観たい、それほどに魅力を覚えた『クリスティ・ヤマグチ、フィギュアスケート・ショー(チャリティ)』だった・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |