龍翁余話(164)「梅は咲いたか・・・」
先日、米沢市の友人から「毎年、豪雪との闘いは雪国に住む者の宿命、それだけに春の訪れが待ち遠しく、梅一輪に出会った時の喜びは身魂を奮わせるものがあります」というメッセージと一緒に(友人宅の)庭の梅の木までもすっぽり覆い隠した数メートルの積雪と、軒下にずらり、まるで剣がぶら下がっているような氷柱(つらら)の写真が送られてきた。寒さ、というより怖さを感じる写真であった。豪雪、ではないが、今年の降雪ニュースは雪国だけにとどまらず、西日本方面にも雪害が多かった。大分県や福岡県からも“雪景色”(写真)が送られてきた。翁の田舎では、あちこちで水道管の破裂など凍結被害が続出したそうだ。ひきかえ東京地方は3週間を超えるカラカラ天気、テレビやラジオが連日“記録”を報じている(1月22日現在)。そんなある日、定例のミーティングが早めに終わったので『龍翁のご近所散歩』第2弾をこころみることにした。豪雪との闘いが続く米沢市の友人ほか、雪国の人たちに申し訳なく思いながら、一足早い春を求めて・・・
翁の住む品川区平塚から、そう遠くない所に『池上梅園』がある。「梅は咲いたか・・・」公園の事務所に電話で問い合わせた。「満開は、まだ先ですが、ところどころの枝に花を咲かせています」の返事。ならば、ということでカメラバッグを担いで都営地下鉄浅草線で『西馬込』へ。翁が乗る『戸越』から3つ目、というより『西馬込』は同線の始点終点駅。現住所に35年も住んでいるのに地下鉄で『西馬込』に行くのは初めてだ。駅員に道順を訊く。「第2京浜(国道)に沿って西へ10分ほど行った所に“池上本門寺”の看板があります。そこを左に曲がると、直ぐです」10分くらいの歩きではメタボ予防にはならないだろうが、往復20分、園内散策30分(予定)を合わせれば、まあまあの歩数になるはずだ。
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大田区立だから入園料は安い。16歳から64歳までは100円、65歳以上と15歳以下は無料。受付のお嬢さん「よくいらっしゃいました。どうぞごゆっくりご鑑賞下さい」と丁寧な応対。案内パンフレットを貰って園内を見渡したが「お〜い、梅はどこだ?」“鑑賞”なんてものではない、一見しただけではまるで枯れ枝の丘。確かに“ごゆっくり”は出来る。何故なら、来園者は翁のほか4、5人だから。カメラをぶら下げて花を探していると、すれ違いの老夫婦から声をかけて貰った「丘の上の見晴台の所に、少し咲いていますよ」「ありがとうございます。では」ということで、なだらかな丘陵を登った。なるほど、都合よく白・紅の梅が並んで花を(ほんの少し)咲かせていた。早速、シャッターを切る。ここまで歩けば、ジャンパーを脱いでも汗ばむ日和、まさに『梅一輪 一輪ほどの 暖かさ』だ。この句の作者は服部嵐雪(はっとりらんせつ)、江戸時代前期の俳諧師で蕉門十哲の1人。師匠の芭蕉も『春もやや 気色(けしき)ととのう 月と梅』という句を残している。長い冬が過ぎ去って梅が咲き始めた。それだけでも充分に春を喜ぶのだが、加えて月も出た。これで早春の気分はととのった、という意味だろうか?米沢の友人のメッセージ“春の訪れが待ち遠しく、梅一輪に出会った時の喜びは身魂を奮わせる”に重なる。
案内パンフによると『池上梅園』は(戦前までは)日本画家・伊東深水(1898年〜1972年)の自宅兼アトリエだった。戦後、築地の料亭経営者・小倉某の別邸になったが小倉氏没後、大田区に移管、大田区花である“梅”370本(白梅150本、紅梅220本)の梅園に造り上げた。見頃は2月初旬からだそうだ。
“梅観賞”から“公園散策”に気分を切り替え梅園の奥の方に歩くと和風建築の粋を極めた『清月庵』、『聴雨庵』などが翁を喜ばせたが、スペースの関係で解説は割愛する。散策の途中、何故か、ふと、(以前に数回参詣した)福岡の大宰府天満宮の梅を思い出す。ご存知、大宰府天満宮は学問の神様・菅原道真公(平安時代の貴族・学者・詩人・政治家)を祀る神社。時の政敵・藤原時平にはめられ京の都から大宰府に左遷させられた道真公は京を去る時、紅梅殿の梅に向かって『東風(こち)吹かば においおこせよ梅の花 あるじなしとて 春な忘れそ』と詠んだ。天満宮の境内の老樟(楠の古木)の下に、その歌碑が建っている。こよなく梅花を愛した道真公を慕って、梅花が京からはるばる飛んできた、という“飛梅伝説”もあり、本殿の右前の御神木『飛梅』は、千有余年たった今日も毎年神苑で最初の清香の花を咲かせているとのこと。
我が郷土・大分県の県花・県木は『豊後梅(ぶんごうめ)』、福岡県の県木は梅、梅干しの名産地・和歌山県の県花が梅であることは当然。東京の近辺で梅の名所と言えば吉野梅郷(青梅)、熱海梅林、水戸偕楽園、三渓園(横浜)、越生梅林(埼玉)を思い浮かべるが、これらはいずれも観賞用。生産梅としては実は群馬県が和歌山県に次いで日本第2位の産地であることを知る。秋間梅林(安中)、榛名梅林(高崎)、箕郷(みさと)梅林(高崎)の、いわゆる“群馬三大梅林”は本数、種類、面積などスケールがでっかく、実に壮観だそうだが、翁、残念ながらまだ行ったことがない。『龍翁のご近所散歩』には少々遠方だが、いずれ訪ねて見よう。
『雪国の 春告草(はるつげぐさ=梅)の 待ち遠し』――米沢の友人宅をはじめ豪雪地帯の皆さんのご無事を願ってこの1句を贈る・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |